『ラブ&ポップ』

molmot2007-02-24

ナインティーズ! 廃墟としての90年代
38)『ラブ&ポップ』 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★★

1998年 日本 ラブ&ポップ製作機構 カラー ビスタ 110分
監督/庵野秀明     脚本/薩川昭夫    出演/三輪明日美 希良梨 工藤浩乃 仲間由紀恵 三石琴乃 石田彰 林原めぐみ 平田満 吹越満 モロ師岡 手塚とおる 渡辺いっけい 浅野忠信 岡田奈々 森本レオ
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 金曜日に、『リトル・ミス・サンシャイン』『風と共に去りぬ』『DOA』『カポーティ』『UNKOWN』をハシゴして、或いはどれか飛ばしてアテネ・フランセクリス・フジワラの講演を聴こうなどと予定していても、普段ヒトが働いている時に映画観たりしているせいで、全く仕事終わらず、殊に『風と共に去りぬ』『DOA』を連続で観るシブさを楽しみにしていたのに果たせなかったことは返す返すも残念で、公開前から前売り券を買っていた『DOA』はたぶん今のままでは見逃してしまう可能性が極めて高いなと思うが、毎年前売り買ったまま観ない映画が10本単位であるので、仕方なし。
 では翌日は多くの作品が一斉公開されることだしと思っていても、結局開放されたのが夜の8時で、新作を観に行く気力もなく、せめてシネマヴェーラ渋谷へと思い、それも『リリイ・シュシュのすべて』には間に合わなかったので、最終回の『ラブ&ポップ』のみ観ることにする。800円で観られるし、フィルムで観るのは9年ぶりなので。
 シネマヴェーラの入っているQ-AXビルに着くと、1Fのレストランで何かやっているので、週末だとそう珍しい光景でもないので、大して気にも留めなかったが、壇上に上がっている男が視界に入ってくると、キム・ギドクであることがわかった。と同時に今日から特集上映が始まったことを思い出す。未公開作品は観たいが、それらはデジベの上映になるんだよな、というのがネック(またこんなん書くと、<フィルムでもビデオでも普通の観客は見分けつかないんだから、どうだっていいじゃないですか>みたいなヘンなメール来るから黙っとこう)だが。
 それにしても驚いたのがシネマヴェーラの客入りの良さで、小さなレンタル店でも置いてある作品だけに、態々観に来る客が居るかどうかと思ったが、好調な動員ぶりのようだった。

 
 『ラブ&ポップ』を劇場で観るのはこれで5回目だが、劇場で観るべき作品であることは間違いないと改めて確信した。
 今回の上映で初見だと言うヒトの感想をチラリと目にすると総じて不評なようで、やはり余り受け入れられない作品なのだと感じた。但し、現在から観ると題材が古びているから面白くない云々という批判は、公開時でも既に題材的には古びており、97年末公開の『バウンズko GALS』でも、映画は今更こんなネタやってんのかと思った。『ラブ&ポップ』でも同様で、題材的には撮影時の1997年夏の段階でギリギリで、本当はその年の晩夏にでも公開できてしまえば良かったのだろうが、往年のプログラムピクチャーやピンク映画が持っていたエクスプロイテーション的な即物性を現在の興行機構の中で実現させることは難しく、本作が公開された1998年の1月の段階で、既に古びていた。
 毎年の様にDVDで再見しているので、今更劇場で見返しても何が変わると言うわけでもないと思ったが、やはり劇場でスクリーンを見詰めると印象は変わり、前半の目まぐるしい特異なアングルと編集が、観客の感情移入を遠ざけているのかとか思いながら引いて観ていたが、その分、後半のじっくりFIXで見せる画が際立つので、プロデューサー側のフィルムで撮る予算はあるので(製作費1億)せめてスーパー16でやってくれという声を無視して、この時期に民生のDVで撮るんだと決断した庵野秀明の判断は正しかったと思う。ラストの35mmビスタへの変化といい、現在のフィルムとビデオが両立する状況を見据えた画期的作品だったと思う。
 初見時から、終盤の自宅に帰ってからのシャワーシーン辺りで流れが落ち込む辺りが気に入らなかったが、今回はそう気にもならなかった。浅野忠信じゃなかったら、ただの説教臭いだけのシーンだとか思ったり、『バウンズko GALS』ではもっと露骨にオッサン側(原田眞人)からのウザイ説教を聞かされたが、そんなにケツで女子高生相手に説教しなきゃなんないのかね?という思いはある。
 

 ただ、庵野秀明という個人を考えれば、この作品が最後の輝きになってしまったのが残念で、その後のTVアニメ『彼氏彼女の事情』(『ラブ&ポップ』の手法が応用されており、わかりやすい点を指摘すれば、エンディングは実写の1カット撮影で、毎回パターンが変わるが、学校の廊下を肩車したハイアングルから奥への移動で見せたりする)の『ラブ&ポップ』の前半の目まぐるしい描写をアニメで発展させたような手法で全篇通したり、松たか子のPV『コイシイヒト』、『24人の加藤あい』のCM、ショートフィルム『流星課長』の酷さに呆れ果て、劇映画では『式日』『キューティー・ハニー』という監督生命の危機と言って差し支えない世紀の愚作を撮っているので、今年公開される『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』への不安も大きい。よく早くアニメに帰れという声を聞くが、実写でもあんなコトになってるのに、アニメに戻ったからといって、そう簡単に往年の才能を、一部の箇所で天才アニメーターだった頃の片鱗を見せることはあるにせよ、演出という領域で考えればそうそう巧く行くものかと不安ではある。エヴァに関して言えば、『リニューアル・エヴァンゲリオン』でフルサイズOPというのを摩砂雪が製作していたが、驚くくらい編集が悪くて、あの編集が巧いと感心させられていた庵野摩砂雪はどうしたのかと思うばかりだったので、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は大丈夫だろうかという思いがある。ただ、『ラブ&ポップ』のテンションの高さ、成功は、夏の『THE END OF EVANGELION』から休まずに続けて製作に入ったことが要因と思えるので、再びテンションを取り戻せば、往年の輝きが…と相当好意的に思わなくも無い。


 『ラブ&ポップ』は2/28(水)に再上映。
 ちなみに、河瀬直美が主人公の心中の声を担当しているが、ビデオ店のAVコーナーへ主人公が連れ込まれるシーンでは、視覚に入るAVのパッケージのタイトルを河瀬が読み、それもステレオで別タイトルを延々と読むので、河瀬直美が『ザーメンクラブ』とか言ってるから映画監督女子の淫語に性的興奮を覚える方は観に行った方が良い。実際、河瀬のナレーションは、その後の庵野の『式日』での松尾スズキ林原めぐみのナレーションなんかより、使い方もずっと良いんですよ。と、自分が映画監督女子の淫語に性的興奮を覚えてると思われては嫌だから、慌てて付け加えておこう。




【映像資料】
 YOU TUBEってこんなもんでも上がってるのかと感心しつつ、OPとEDをあげてるのは、やはりアニメの延長線上に捉えられているのかなと。
 上から、特報①、特報②、予告篇、OP、EDとなる。
 カンパニー松尾による特報③がアップされてないみたいなので残念。本編では未使用に終わった南の島での海岸の走りをビジコンのモニターを撮影した荒れた画像に、パラダイス・ガラージが流れる素晴らしい特報だった。因みに南の島の幻のラストシークエンスは35mmを使用していた為、カンパニー松尾が敢えてビデオ撮影でビジコンを直撮りしたビデオ映像を特報に使用し、更にキネコしてフィルムに焼くという多重構造が、本編そのものを示していて面白い。
 特報①、特報②は共に映像は全く同じで音声に違いがある。特報①は三輪明日美の朗読、特報②は特報撮影中に通りすがりのファンに声をかけられた庵野秀明の受け答えが、そのまま作品の解説になっているからという理由で採用されたバージョン。但し、あまりにも内輪受け過ぎると庵野と大月Pの判断で、特報②はエヴァ関連のイベント等でのみ流されていて、普通の劇場では特報①が流れた。
 ちなみに、予告篇等でこれ見よがしに大胆な使い方をされている映倫関係のロゴや書類の出し方は、劇エヴァに引き続きだが、この手法をそのまま流用したのが深作健太で、『バトル・ロワイアル』での映倫マークの使用法に影響を与えている。そもそも『バトル・ロワイアル』の脚本は、当初薩川昭夫に発注されたが、丸山昇一ですらボロボロにされた深作欣二に恐れをなして逃げられた由。仕方なく深作健太が書かざるをえなくなった。
 と言うように、『ラブ&ポップ』公開時に片っ端から関連記事を熱心に読み漁ったせいで、こんな全く役に立たない情報が今でもスラスラ空で言えるようになってしまったという。
 ちなみに、公開時の『アニメージュ』は、創刊以来初と話題になった↓な表紙に。如何に当時庵野秀明ってだけで話題になったかの象徴的なモノ。