『リビドー・ガールズ 女子とエロ』

10)『リビドー・ガールズ 女子とエロ』(雨宮まみ真魚八重子堀越英美みくにまこと金巻ともこ/スラッシュ君/baddreamfancydresser) PARCO出版

リビドー・ガールズ―女子とエロ

リビドー・ガールズ―女子とエロ

 3月の頭辺りに出るとは聞いていたが、もう出てた。
 とは言え、即購入とならないのは、女子とエロという副題や、執筆者の並びや書店での配置からして、いかにも女子向けの書物の雰囲気が漂うので、『ユリイカ』みたいな分量があるなら興味半分で買うにしても、こういうものなら立ち読みで良いやとめくってみたが、自分が知っているのは、雨宮まみ真魚八重子という並びだけで、とは言え、この二人と言えばAVとロマンポルノだし、実際本書でもAVとロマンポルノについて書いてあるのだから、気になるのは当然で、しばし立ち読みで二人の文章を眺めたら、あ、買おうと。
 映画館への行き帰りで、雨宮まみ真魚八重子の箇所だけ先に読んでしまったが、他の方のものは未だ読んでいないので本書全体の構成や性格は分かりかねる。単純に自分の興味範囲であるAVとロマンポルノの箇所を先に読んだだけにすぎないので。

 その上で言えば、既に十分面白かった。というのも、<女の子のための〜>という前提は自分にとってはどうでも良く、単純に彼女らの作品評が好きだってだけのハナシなので。

 
 雨宮まみid:mamiamamiya)は、『私のようなイタい女たちに贈るAVガイド』と自虐的タイトルを掲げつつ、『平野勝之監督 不倫三部作』『カンパニー松尾 テレクラ傑作選』という枠組みから書かれた有名作への個別評は、短いながらもやはり面白くて、近年のAV評しか読んだことがなかったので、『わくわく不倫講座』や『テレクラキャノンボール』評など、どういう視点で書くのかという興味もありつつ読んでいたが、やはり面白かった。勿論、女子のための、という視点で書かれているのでその方面の方が読むAV入門書としても良いに違いないとは思うが、女子のためのとカテゴライズして男性が手に取らないまま終わっては勿体無いと思えるものだった。しかし、女性が見るには中々困難さを伴う作品が多いのも事実で、面白いAVを観たいという男性がナビとして読んでも申し分ないし、自分は未見作は観たいと思ったし、既に観ている作品も再見したいと思った。

 
 真魚八重子id:anutpanna)は、『女の子のためのロマンポルノ鑑賞ガイド』と題した、あくまで<女の子のための〜>という前提を掲げつつ、実際は優れた普遍的なロマンポルノ評を展開させていて、当然これからロマンポルノを観ていくという女性には最適のナビであることは間違いないが、それだけでは留まらないものなので、広く読まれるべきだ。
 と言うのも、作品紹介とそこに含まれる情報量と批評性のバランスが非常に良く、単に有名どころの作品か、或いはいかにもというような変化球の作品を羅列するだけの嫌らしさは皆無で、ロマンポルノの発生の起源を明解に提示した上で、何故ロマンポルノの質が維持できたかを、撮影所システムを背景に持っていたからであることまでしっかり言及していて、この段階で、正に真っ当なロマンポルノ論が展開されることが明らかで、ヤワなガイド本とは違うと気付く。
 何せ始めに挙げられるタイトルが『(秘)色情めす市場』なのだから個人的にも喜ぶしかないが、3月25日(日)からラピュタ阿佐ヶ谷で始まる田中登の特集上映「性と愛のフーガ 田中登の世界」でも『(秘)色情めす市場』は上映される。しかもニュープリントだから、本書を携えた女の子でも男性でも良いが、ラピュタ阿佐ヶ谷に来て、ロマンポルノを観始めるという状況になれば良いと思う。
 前述した、<作品紹介とそこに含まれる情報量と批評性のバランス>という意味で見事なのは、作品を手繰り寄せる手つきで、淀川長治でも森卓也でも中原昌也でも同様だが、作品と作品を結びつける手つきが巧いのだ。本書で言えば、『(秘)色情めす市場』→芹明香→(深作欣二仁義の墓場』)神代辰巳→『女地獄 森は濡れた』→中川梨絵→『OL日記 牝猫の情事』→加藤彰→『愛に濡れたわたし』といったような、スルスルと作品を関連づけて結んでいくのが見事で、ロマンポルノを女優と監督によって観ていく面白さを教えてくれる。
 呆気に取られるのは、しっかり大和屋竺曽根中生への言及をかなりのスペースを割いてやってのけていることで、繰り返すが、こんなん、<女の子のため>だけの読み物にしておくのは勿体無い。しかし、女性とポルノで常に語られる鑑賞者の生理的嫌悪感への言及もなされているので、<女の子のため>に書かれていることは理解しつつ、男性から読んでもロマンポルノに関する面白い読み物であったことは確かだ。
 
 恐らく、書店では女性向けのコーナーに並べられてしまうであろうから、男性は手にすることもないまま終わる可能性があると思うが、自分が既に読んだ二名の箇所だけでも、十分男性が読んでも使える優れたガイドブックになっていたので、女性のみならず広く読まれるべきだと思う。
 




※表題は、下記の清水圭の著書をモジったものだが、特に何らかの意味合いも他意も無い。念のため。


やがてテレビに出るキミたちへ! (単行本(ソフトカバー))
清水圭 (著)

出版社: ぶんか社 (1994/10)