『狂った一頁』ピアノ演奏つき35mmオリジナルサイレント版復元フィルム世界初上映/『錆びた缶空』8mm&DVD上映

molmot2007-03-03




『狂った一頁』ピアノ演奏つき35mmオリジナルサイレント版復元フィルム世界初上映  

 チケットを入手したので安心して書くが、『狂った一頁』(衣笠貞之助)の上映が行われる。
 と言うだけでは、そう珍しいものではない。昨年夏にもPFFの「サプライズ上映企画」の中で、荻上直子がこの作品を選んだので突如上映された。この時は、自分は同日同時間に、今回の上映会場である有楽町朝日ホールでルビッチを観ていたので、観に行くことが出来なかった。
 『狂った一頁』は、1998年4月29日に高槻松竹で上映された際に観た(この時の上映が関西では約20年ぶりだったそうである)のが初見で、以降再見する機会がなかった。今回9年ぶりに再見できるわけだが、それも、

従来上映されてきたプリントは監督自身の監修によって同じ元素材から作成されたサウンド版であったが、今回初めて画面比率を無声映画期の標準規格1対1.33のまま復元した。

での世界初上映になるらしく、更に高橋悠治のピアノ演奏つきでの上映とのことなので、例によって有楽町朝日ホールでの朝日新聞が咬むとバカ高くなる料金(前売券2,300円、当日券2,800円)ではあるが、駆けつけるだけの魅力がある。
 
 『狂った一頁』に関しては、以前も書いたが、淀川長治蓮實重彦が二人して罵倒したせいもあり*1、(関係ないけど、ハスミ先生が『何が彼女をさうさせたか』フィルム発見時に観てくださいと言われて、「私は暗い映画は嫌いです」と返したという噂は本当なのか)、一部に重要視しない向きがあるようだが、だからと言って観なくて良いというものではない。確かに自分も大傑作などとは思わないが、優れた美しい作品且つ、あまりのモダンさに圧倒された。精神病院ものの最高峰に位置する作品で、この作品を観てしまえば、岩井俊二の『PICNIC』がいかに幼稚な映研映画であるか(ただし、技術を伴った失敗作であるが故に引っ掛かっている部分もあるわけだが)がよくわかる。
 精神病院へ入院している狂った妻を小使いである夫の視点から描いているが、この病院内の描写が凄い。殊に床を蹴りつつ踊る女など忘れ難い。
 今後フィルムが発見されることを願って止まない溝口健二の『血と霊』を受け入れる為にも、同時代に作られた表現主義映画である『狂った一頁』を丹念に観返すことから始めなければならない。

日時:2007年4月8日(日) 18:45〜20:50
会場:有楽町朝日ホール(東京都千代田区有楽町2-5-1マリオン11階)


主催:東京国立近代美術館フィルムセンター朝日新聞社
協賛:株式会社IMAGICAウェスト
運営協力:ぴあ


18:45〜19:25 座談会
FIAFの活動や映画保存・復元の今後について語り合う。
ゲスト:エヴァ・オルバンツFIAF会長(ドイツ・キネマテーク学芸部長)
    パオロ・ケルキ・ウザイ(オーストラリア国立映画音響保存所所長)
    司会:岡島尚志東京国立近代美術館フィルムセンター主幹)

19:30〜20:50 特別上映会


『狂った一頁』(1926年、78分、35mm、上映速度18コマ/秒、無声、白黒)
監督:衣笠貞之助 製作:新感覚派映画連盟 原作・脚本:川端康成 撮影:杉山公平 撮影助手:円谷英一(英二) 舞台装置:林華作、尾崎千葉 出演:井上正夫、中川芳江、飯島綾子、根本弘、関操、南栄子、高勢実、高松恭助、坪井哲
演奏者:高橋悠治(ピアノ)


http://www.momat.go.jp/FC/fiafspecialscreening.html

■『錆びた缶空』8mm&DVD上映

 昨年夏にようやく初見を果たした松井良彦の『錆びた缶空』が、4月に再び上映される。しかも、前回はDVD上映だったが、今回は3回の上映の内、1回のみ8mmフィルムでの上映を行うようだ。
 この時期の8mm作品をフィルム上映される機会というのは滅多に無いので、観に行って損はない。先日の園子温の初期8mm上映会でも思ったが、まだ自分がこの手の自主上映会に行き始めた頃は、旧作でも8mm上映するのが当然だったが、最近では、フィルムが切れたり、なかなかうまくパーフォーレーションが映写機に咬み合わなくて何度となく映写が止まったりする度に、ヒヤヒヤして、もうテレシネしたマスターで上映すりゃ良いじゃないかと思ってしまうぐらいで、塚本晋也みたいにデュープとってんのかよ、この映画、などと心配してしまう。
 これが上の世代だと、大丈夫よそんなのと流されてしまうのだが、世代的に8mmで撮るにしても編集はテレシネしてから使っていたし、直接フィルムを切り貼りしなかったので、妙な心配を持ってしまうわけだが―、ともあれ『錆びた缶空』の8mm上映の機会は滅多に無いだろうし、最後に近付いているであろうから、観ておこうかと思う。
 『追悼のざわめき』も、DVD化が進んでいるようだし、今年は松井良彦の旧作を諸々観返して、昨年残念ながら頓挫した新作が形を変えつつ再び起動するであろうことを願いたい。
 そーいえば、自分は『豚鶏心中』を見逃したままで、観たいとずっと思っている。90年代後半に『京極真珠』とかと一緒に上映してたんで、京都まで観に行く予定が潰れて悔やんだ記憶とか僅かに残っている。あの頃の関西インディーズ映画の、何かが起こりそうなざわめきが懐かしい。

 

アジアン・クイア・フィルム&ビデオ・フェスティバル(AQFF) イン・ジャパン 2007
“Asian Queer Film & Video Festival in Japan 2007”


映画「錆びた缶空」


4月16日(月)15:00〜(DVDで上映予定)
18日(水)21:00〜(8ミリフィルムで上映予定)
20日(金)17:00〜(DVDで上映予定)
[注] 上記のDVDは上映のためのもので、市販はされておりません。


期間:4月14日(土)〜20日(金)
場所:シネマアートン下北沢
小田急京王線/下北沢駅南口から徒歩5分)
東京都世田谷区北沢1-45-15 スズナリ横丁2F/TEL 03-5452-1400


料金:1回券 (前売り)¥1100- (当日)¥1200- 4回券 (当日) ¥4400-


※詳細は、こちらをご覧ください
http://aqff.jp/2007/index.htm

*1:『映画千夜一夜・下』  「8 カリガリからヒッチコックまで」 中公文庫