コメディアン・俳優 植木等死去

molmot2007-03-27

植木さんと親交のあった作家、小林信彦さんの話 

ご本人はまじめな苦労人ですが、いったんライトを浴びるとすごくおかしくてインチキで怪しい人物になった。そこが魅力で生の舞台が一番すごかった。「無責任」シリーズは、努力すれば勝つというそれまでのサラリーマン映画を180度ひっくり返した。自分のことしか考えないサラリーマンを演じ、高度成長にさしかかる時代に登場したので受けたのです。


http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20070328k0000m040081000c.html

 

 27日午前10時41分、東京都内の病院で、呼吸不全のため死去。80歳。
 青島幸男の葬儀の際の姿を見て、楽観してはいなかったが残念だ。
 自分の世代にとっての植木等とは何か。俳優であり、時折コメディアンの片鱗を見せる存在だったと言うべきか。幼少時の頃に、始めに認識したのは『ザ・ハングマン』等のドラマの中に軽妙に出現する植木等と、特番等でクレージーキャッツと共に集合する植木等の存在が二つあったと思う。かくし芸大会の、クレージーキャッツvsドリフターズというフォーマットは既に終了にさしかかっていた筈で、それでも、ハナ肇共々ナベプロ色濃厚な中で、往年の雰囲気を当時を知らない世代にも僅かに感じさせた。
 自分にとって決定的となったのは、1986年3月6日夜に木曜スペシャルの枠で放送された『シャボン玉ホリデー・傑作選』で、当時7歳だったが、その時一度見ただけにも係わらず今でも印象は鮮烈で、番組は再放送部分と当時の台本を再使用しながらのリメイクパートに分かれていたが、異様に面白かった。それは自分だけに限らず翌日学校へ行くと、女子はザ・ピーナッツと同じくシャボン玉ホリデーのテーマ曲を口ずさみ、教室のあちこちで、ガチョーンと、お呼びをやってのける小1が続出していたのだから、如何に古びずに強烈な印象を植えつけたかがよく分かる。ちなみに自分は、ヒトのやらないことをやるべくラストの『スター・ダスト』終わりのハラホロヒレをやっていた。この時から、クレージーキャッツ並びに植木等は特別な存在となった。
 その後、1990年の『スーダラ伝説』に端を発する植木等のリヴァイヴァル・ブームを体感できて良かったと思っている。植木本人が企画したこともあって、明らかに本人もやたらと乗っていたことも良かったのだろう。ある一時期ではあったが、植木等のレギュラー番組や、クレージーの特番が組まれるようなことになり、遅れてきた世代にとっては嬉しかった。もっともクレージーの特番の大半は他愛ないもので、せっかく集めているのに使いきれていなかったが。

 
 小林信彦は、クレージーキャッツは舞台が最良、次がテレビで、映画がいちばん駄目と言った。
 しかし、後世の者からすれば、舞台は殆ど残っていない、テレビも大半が同様で、映画がかろうじて上映される機会があるというものだっただけに、どうしても映画に頼らざるをえないことが多かった。その映画ですらも偶のテレビ放送や、僅かにソフト化されているビデオでなければ観れなかったが、それでもそれを観ては無邪気に喜んでいた。CSやDVDで割合見やすくなり始めたのは、つい最近のことである。
 浅草東宝でクレージーのオールナイトや、CSで未見のクレージーものを観ていても、やはり植木等が出てくるだけで、もう笑ってしまう。何もしていないのに笑みをこぼさせる存在は他に居ない。あれは何なのか。だから、『乱』に植木等が出てくるだけでもう笑ってしまい、お呼びで無いのにしゃしゃり出てというような科白を終盤に言うだけで噴出しそうになってしまい、クロサワアキラによる『ホラ吹き太閤記』の続編的ヴァリエーションとして位置づけて観ても面白い。

 
 そんなこともあって、近年でもこの歳にしては珍しく、フトTVに植木等が出てくると身を起こすような好き具合だったので、もう少し生きていて欲しかったという思いがある。
 90年のリヴァイヴァルブームの際に東宝が企画していた『平成一の無責任男』が実現していれば良かったのにという思いもあるが―、やはり実現しなくて良かったのかもしれない。

 
 しかし、今日の訃報を聞いて別の意味で驚いたのは、昨晩ネットで『クレージーキャッツ メモリアル』という4枚組のLDBOXを購入したばかりだったので、そのタイミングに複雑な思いを抱いた。

 この『クレージーキャッツ メモリアル』というのは、『シャボン玉ホリデー』を6本丸々ノーカットで収録し、『植木等ショー』、『おとなの漫画』、『クレージーキャッツ結成10周年コンサート』など、現存する映像を一気に収めた限定版で、DVD化を待っていたがどうも権利関係で出そうにない(全員集合でも第二弾でようやくゲスト入れ込みで出たが、売れ行きが芳しくなく、ドリフですらそうなのだから、クレージーではより無理だと判断した)ので、物凄く高かったのだが、『シャボン玉ホリデー』を丹念に見返すには購入するしかなく、前々から検討はしていたが遂に買ってしまったのが昨晩で、今は到着を待っているという段階なので、その最中の植木等の訃報には驚かされた。

 
 結局自分にとっては、最後の輝きを観ることができたことが幸いだったと思う。この後は、僅かに観ることが出来る全盛期の番組と映画で植木等を追悼するのみだ。
 青島幸男の死去の際に、当然予定を変更して追悼特番が組まれると思っていたが、一切無かった。まさか、植木等でも同様なことになってしまうのだろうか。1993年にハナ肇が亡くなった時は、直ぐに予定が変わって追悼番組が組まれ、殊に日テレは充実した番組を当然ながら作っていたが。いかりや長介の死去の方が大きく扱われてしまうのは、歴史性のパースペクティヴの欠如だけに、正確な追悼をするべきだが…。
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