植岡喜晴監督新作『ルック・オブ・ラブ』6月26日21:00よりユーロスペースで上映 

 昨年、アテネ・フランセで初上映の際に偶々観に行って、その素晴らしさに圧倒された植岡喜晴の新作『ルック・オブ・ラブ』が26日(火)21:00からユーロスペースで一度だけ上映されるので、是非観ていただきたい。
 『第2回ガンダーラ映画祭』や山下敦弘の『中学生日記』『童貞。をプロデュース』『ラザロ』など、今年はインデペンデントから、メジャー映画でもはや機能しなくなったプログラムピクチャー的な面白さに満ちた秀作が公開されるが、『ルック・オブ・ラブ』もそんな一本で、下記に初見時の雑感を書いたものを転記しておいたので、その興奮が少しでも伝わればと思う。
 これらの作品に共通しているのは、いつまでもやっていないし、次に観られるのはいつかも分からないという点だ。全てソフト化されていないし、上映も1日だけのレイトショーやオールナイトだったり、数週間の上映だったりする。自主映画的な独りよがりな観念性もなく、何故これがインデペンデントで作られなければならないのかと思っていしまう娯楽性に満ちた秀作だけに、この貴重な機会を逃さないで欲しい。
 ピンク方面の方には、葉月蛍がベトナム人娼婦(!)を演じてしまえる凄さを確認して欲しいし、その夫を瀬々敬久が演じていることに笑いながら、そこで展開される僅かなインサートシーンではあるが、海岸の家族風景の心地良さを感じて欲しいし、今岡信治が茫然としたまんまな姿で登場するのも必見である。

ルック・オブ・ラブ』 (アテネ・フランセ文化センター) ☆☆☆★★

2005年 日本 映画美学校映画美学校研究科植岡ゼミ作品) パートカラー スタンダード 108分
監督/植岡喜晴     脚本/植岡喜晴     出演/戸田昌宏 葉月蛍 温水洋一 遠山智子 神戸浩 高橋洋 瀬々敬久 今岡信治 柳ユーレイ

(一部ネタバレ含む)
 予想もつかない面白さに満ちた佳作だった。
 新作8mmなのに、いきなりDVD上映なのは何故か。或いは‥と思った通り、テレシネしてからタイトルクレジット含めてビデオ編集で行っているようだ。
 上映前の舞台挨拶で初めて知ったのだが、本作の撮影は5年前に行われたのだと言う。その後、紆余曲折を経て完成したということだが、何故5年も完成までにかかったのか具体的なことは語られなかった。と、周辺状況が気になるのも、本作がとても魅力溢れる作品に仕上がっているからで、もっと早く公開してくれれば良かったのにと思えたからだ。

 戸田昌宏が街頭で緑色のパンツと呟き立っている開巻からして引き込まれる。彼は自室の向かいの部屋を覗いている。向かいの女はカーテンを開け放ったまま裸で室内を歩いたり、男を連れ込んだりしている。
 という設定は、『裏窓』を想起するしかないが、覗かれていると気付いた時の女のリアクションと室内灯を消して暗くなる室内など、そこだけ取り出せば正にまんまなのだが、ロケでありながら『裏窓』をやるということを、これ見よがしにせずに自然に取り入れてしまっていることには驚くしかなく、それもいかにもヒッチをやるという意気込みを持ってではなく、何とはなしにやってしまっているから鼻につかない。
 葉月蛍、永井正子、温水洋一というコンビが登場してから、作品が俄然予想もつかない方向へ動き始めて、観ていてもう面白くてたまらなかった。殊に温水洋一の存在が大きく、これまたこんなに重要なキャラになるとは思いもしなかったので、次がどうなるか先が読めずに胸踊った。
 葉月蛍にベトナム人不法滞在娼婦を演じさせているのが素晴らしいが、戸田昌宏がピンクチラシを見て電話して彼女が訪ねて来てからの室内の濃密な空間が凄い。スパイ衛星ランドサットを語るシーンは特筆に価する(しかし、終盤にまさかそんなに関係してくるとは思いもしなかったが)。
 前述した温水洋一が凄いのは、やはりあの植岡喜晴版『誰も知らない』のパートだろうか。車に置いてある食べ物を盗ろうとするガキが居たので捕まえてみると衰弱していて、母親が3万を置いたまま半年間帰って来ずに家では兄弟も衰弱しているという。温水が子供を抱えて家に行ってみると暗いゴミが散乱した部屋で弟が寝ている。妹は死んだので押入れにいれてあるが鼠が‥などと言う。このシークエンスの濃密な描写など『誰も知らない』と拮抗する凄いものだったが、植岡喜晴の凄いのは、温水が食事を与えても子供が食べたと思ったら実に良いタイミングでゲロを吐くのだ。更に驚愕なのは、お礼に酔拳見せるよと兄弟でやり始めるところで、驚いた上で笑った。
 戸田昌宏の方は覗きがバレたことで拳銃を手に乗り込んでいくのだが、ここで唐突に植岡喜晴とは全く無関係なように見えて関西テレビのDRAMADAS繋がりで岩井俊二の名を出したくなるのは、本作を観ていると岩井のテレビ時代の作品2本が思い浮かんだからで、『夏至物語』と『ルナティック・ラヴ』がそれに当たる。夫々向かいの部屋を窓越し覗き込みながら犯罪の新聞切り抜きに余念のない女と、ストーカーの男が家に乗り込んでいくハナシだが、本作と通じる要素を持っているだけに、二人の資質の違いや共通項を思いながら観ていた。
 終盤の車での道行はもう何が起こっても驚かないつもりが、ひたすら驚かされ続けた。しかし、そこには死の迫る人間が一種の崇高さを持って佇む中での道行だけに、観ていて感動的だった。
 葉月蛍がベトナム人までも好演できてしまうことに驚きながら、その夫を瀬々敬久(!)が演じて、インサートされる海岸の家族風景の心地良さや、今岡信治の茫然とした佇まいも魅力だった。そして柳ユーレイは例によって完璧だった。
 観終わって、あのシーンが、あのカットが、と延々と語りたくなる魅力に満ちた作品だった。