『性の放浪』『性犯罪』『紅蓮華』

『一万年、後…。』公開記念 脚本作品ナイト


 9/21までポレポレ東中野で上映中の沖島勲監督の新作『一万年、後…。』(自分の感想はコチラ。これは劇場で観るべき作品)公開を記念したオールナイト第二弾は、脚本作を集めたモノ。何が凄いと言って、今回上映される『性の放浪』と『性犯罪』は、ソフト化はおろか上映される機会も滅多になく、『性の放浪』はまだ数年に一度観る機会はあったものの悉く逃していたせいもあり、ようやく今回観ることができる。又、『性犯罪』も長年観たかった作品だけに、喜びはかなり大きい。
 混むという噂があったので、警戒してぴあで買っては危ないと、直でポレポレまでチケットを買いに来たら3番だったので安心していたが、結果的にはゆっくりと作品を観る事ができて良かったのだが、かなりのレア作の上映だけにもう少し観客がつめかけても良いと思ったが。その分、コアな層はしっかり来ていて、外で入場まで待っていたら、フト隣を見ると、若松イベントとあればロフトであろうと青山ブックセンターであろうと欠かさずに来ているジム・オルークが座っていて、今回も当然の如く若松レア作を見逃すものかと来ているようで、もう驚くこともなくなったが、本当に好きなんだなと。ちなみに『実録・連合赤軍』の音楽を担当している。

トークショー:足立正生vs沖島勲 司会:平沢剛

 もうトークショーがノーカットで公式HP上に上がっているので、感想は後回しにして、とりあえず聴いてもらえれば。
http://1mannengo.hibarimusic.com/?p=185

 ちなみに、若松孝二×沖島勲の回はコチラ
 

251)『性の放浪』(ポレポレ東中野) ☆☆☆★

1967年 日本 若松プロダクション モノクロ シネスコ  78分
監督/若松孝二     脚本/出口出足立正生 沖島勲)     出演/山谷初男  新久美子 水城リカ 小水一男 沖島勲

 
 2005年にポレポレ東中野で行われた『「17歳の風景」公開記念 若松孝二 レトロスペクティブ 2005』は、ソフト化されていたり、上映される機会の多い作品以外に、『性輪廻/死にたい女』『ある通り魔の告白/現代性犯罪暗黒編』『理由なき暴行/現代性犯罪絶叫篇』(後にDVD発売)、『赤い犯行』『血は太陽よりも赤い』『乾いた肌』などを上映したことで記憶される特集上映だったが、自分にとって痛恨だったのは、長年観たかった『性の放浪』を見逃したからで、平日の、しかも午前中にしか上映しなかったので仕方ないと言えばそうなのだが、果たして次の機会はどれぐらい待てば良いのかと思っていただけに、2年で再び同じポレポレ東中野で観る機会が巡ってきたことは、とても嬉しい。『一万年後…。』の試写の案内を頂いた際に、付け加えるように、沖島脚本作として『性の放浪』と『性犯罪』を上映すると書いてあったのを目にした時には、むしろそっちに喜んでしまったぐらいなので、この日を待ちに待ったと言って良い。
 この作品への予備知識は少ない。若松の著書『俺は手を汚す』と、足立正生の『映画/革命』*1などで僅かに知っていたぐらいだ。沖島勲の脚本に足立が少し手を加えたものであること、当時話題になっていた今村昌平の『人間蒸発』のパロディをやっているということなどは知ることができても、作品の全体像は想像できなかった。
 沖島は、『情欲の黒水仙』で若松の助監督をはじめて務め、続いて『密通』『白の人造美女』と就き、二本撮り(当時の作品の大半にはそういった形で参加した由)の『日本暴行暗黒史 異常者の血』『性の放浪』へと続いていく。『日本暴行暗黒史 異常者の血』は、若松作品の中でも最高傑作だと思っているので、連続で撮られた『性の放浪』へも過分な期待をしてしまうが、期待に違わぬ秀作だった。


 『壁の中の秘事』以降の作品で顕著な若松作品の象徴的建築物である団地が冒頭に示される。団地映画の傑作『テロルの季節』などを観ても思うことだが、団地をどう撮れば映画になるかを既に熟知しているかのように、ロングでパンして、13棟といった建物を画面に収めつつ、通路などを縦の構図で見せたりと、スルスルと団地をカットを積み重ねて見せていく。その時に不気味なのは、“イー”“ウワアー”といった唸り声のようなSEが画面を覆っていることだ。
 山谷初男が電車から降りて来る。そしてモノローグで、見覚えのない駅であることが語られる。そこから、何故そこに自分が居るのかを思い返していく。その過程をスチールを重ねていくことで見せるのだが、これが効果を上げている。何せ山谷初男というだけで、既に時空間は捻じ曲がるほどの異世界ぶりを例によって発揮しているのだから(以前、ハッポンさんの唄う『プカプカ』を聴けたのは幸せだった)、新宿の雑踏を一人佇む姿を捉えたスチール一枚で、もう、ここではないどこかに観客は連れ出される。だから、以降のもう帰らないと団地の一室で待つ妻が煩いと思いながらもズルズルと帰り損ねて、やがては脱走犯(ガイラ)に金を持っていかれて一紋無しになってしまっても、山谷はむしろ清々したような顔つきで放浪する。女に引っ掛けられた後、レストランで食事するも置いていかれてしまい、無銭飲食となっても、下働きをさせてくれと頼み込んで、懸命に働く。そこには、嘗ての生活していた場から、どこでもないどこかへ逃れることができた喜びを内に秘めた男の姿があり、それは翌年に製作される足立の『性地帯 セックスゾーン』を連想させる。しかし、同僚の女にそそのかされて金を盗んで共に逃げることになるも、呆気なくまたも山谷は置いていかれる。ちなみに、この逃亡シーンを俯瞰のサイズで捉えたショットは素晴らしい。
 以降、終盤まで書き連ねたい欲求に駆られるが、あまりに深入りしてこの作品に引き込まれると危ないという意識が働く。沖島色の強い脚本であることは、時間も場所も超越してしまった山谷の放浪が延々と繰り返されることからも、明らかに足立脚本とは異なるのだが、それだけに、妙な時間の歪みを感じてしまい、本当にこういう映画だったのか、後から思い返すと彼方に蒸発してしまいそうな、おぼろげな印象として残っているだけだ。
 前述の『俺は手を汚す』の中で『性の放浪』の関連記事として、藤枝静男の『欣求浄土*2にこの作品が取り上げられていると、該当箇所が引用されていたが、その部分を抜き出してみると、

 ― 章がスイッチを消して黙っていると、この若い友人が、自分の感心したというピンク映画を観ることを勧めてくれた。三本立ての最期の番組みで「性の放浪」というのがそれだというので、早速映画館に電話をかけて上映時間を確めておいてから夕食後しばらくして出かけた。―中略―強姦が終わると女はぐったりとして気を失っている。男が女の鼻のところへ掌をあてて生存を確かめて、それから近くに放り出されたハンドバッグから金を盗んで逃げて行く。次はまたちがう町になる。やはり通行人は一人もいなくて、男が立ち止まって首を曲げると、その方角の家の奥で夫婦が交接している。また少し歩いて見当をつけてのぞくと、その家でも交接している。みんな同じことをしている。以上が「性の放浪」の主要部分であった。最後に、この男が東京の上野駅らしいところの改札口から出てくるところがうつる。男が沢山の乗客にまじって吐き出されてくると、駅の構内では映画のロケーションをやっている。カメラの横に反射板を持った男が立っている。板の裏には「蒸発」と、題名らしいものが書かれている。そして全身ピンク色に染まって出てきた彼の痩せた妻が、いま俳優の一人として、ポーズをつくってカメラに向かって歩いて行く。ここのところは前の新聞の映画欄で読んだ問題映画と同じだ。
 真面目な映画だ、と章は思った。


藤枝静男 『欣求浄土』より)

 と、書かれている。長らく自分にとっては、『性の放浪』の内容を伺い知ることができるのは、この文章だけだった。作品を観ることが出来てからこの文章を読み返すと、ディテイルが違っている箇所が多いことに気づくが、作品の雰囲気は最もよく伝わっていることが分かる。唯一の問題は、終盤の箇所で、<全身ピンク色に染まって出てきた彼の痩せた妻>と書かれていたのが印象的だったので、どんな見せ方をしているのだろうかと思っていた。パートカラーでピンクに塗りたくられた女が登場するのかと思っていたので、フィルムの欠損がないとするなら、上野駅で撮影クルー(監督役は沖島勲!)に囲まれた女はごく普通の格好でモノクロのままだったということになる。『人間蒸発』の露骨なパロディで終わるので苦笑しつつも、『欣求浄土』のディテイルの誤り、ありもしないシーンの創造は、観終わった途端にスルスルと手から滑り落ちるかのように、果たして今見た映画は存在したんだろうかと思わせずにはいられない―、劇場に来る前にアルコールが入っていたからだけとは言いたくないような―、若松作品の中でも最もおぼろげな作品になっていたということを実感しただけに、納得できてしまう。だから自分は、観終わった直後に、もう一度観たいと呟かせてしまうのだ。今観たものが本当に存在したかを確認するために。
 尚、観るに当たって一応注意を払っておこうと思ったのは、この作品は完全なる若松監督作品ではないということだ。若松が配給の仕事で1日参加できず、千葉でのロケを足立正生が代わりに監督したという。どの箇所がそうなのか、見当をつけようと思ったが、わからなかった。
 
 

    

252)『性犯罪』(ポレポレ東中野) ☆☆☆

1967年 日本 若松プロダクション モノクロ シネスコ  分
監督/若松孝二     脚本/出口出足立正生 沖島勲)     出演/吉沢健  月美夜 瓜生良介 山谷初男 佐藤重臣 福間健二

253)『紅蓮華』(ポレポレ東中野) 不完全鑑賞につき評点なし

1993年 日本 三協映画 カラー ビスタ  119分
監督/渡辺護     脚本/沖島勲 佐伯俊道     出演/秋吉久美子 役所広司 武田久美子 逗子とんぼ 稲野和子

紅蓮華 [DVD]

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*1:

若松孝二・俺は手を汚す (1982年)

若松孝二・俺は手を汚す (1982年)

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*2:

悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)

悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)