2008年6月

『偽大学生』(☆☆☆★)、『剥き出しにっぽん』(☆)、『出れない』(★★)、『the hiding -潜伏−』(★★★)、『パーク アンド ラブホテル』(☆☆☆)、『温泉スッポン芸者』(☆☆☆★)、『怪談せむし男』(☆☆☆★★)、『乱れからくり』(☆☆☆)、『シューテム・アップ』(☆☆★★★)、『女番長ゲリラ』(不完全鑑賞につき評点なし)、『すいばれ一家 男になりたい』(☆☆☆★★)、『喪服の未亡人 ほしいの…』(☆☆★★★)、『現代ポルノ伝 先天性淫婦』(☆☆☆★★★)、『我ら天下を獲る』(☆☆☆)、『ロボコップ4』、『JOHNEN 定の愛』(☆☆)、『ラスべガスをやっつけろ』(☆☆☆★)、『温泉みみず芸者』(☆☆☆☆)、『縛師』(☆☆★★★)、『REC/レック』(☆☆☆)、『ばけもの模様』(☆☆★★★)、『マリア・ブラウンの結婚』(不完全鑑賞につき評点なし)、『何故R氏は発作的に人を殺したか?』(☆☆☆★)、『ヒトラーの贋札』(☆☆☆)

6月1日(日)

 映画の日だというのに、終日寝て過ごす。夜、高円寺にビデオを返しに行ったぐらいか。
 古書店で、阿部嘉昭68年の女を探して―私説・日本映画の60年代』を1500円で、大森一樹映画物語 (リュミエール叢書)』、毎日新聞旧石器遺跡取材班発掘捏造』、毎日新聞社社会部破滅―梅川昭美の三十年』を各100円で購入。

68年の女を探して―私説・日本映画の60年代

68年の女を探して―私説・日本映画の60年代

発掘捏造

発掘捏造

6月3日(火)

 ラピュタ阿佐ヶ谷で、増村保造偽大学生』(☆☆☆★)を観る。
 評判ほどの傑作とは思わない。同時代の大島渚『日本の夜と霧』の方が遙かにスパイ嫌疑、監禁の緊迫感がある。終盤の主人公の発狂描写の過剰さは買う。ジェリー藤尾が“新しい型の気違い”呼ばわりされているのに笑う。

 村井実はだかの夢年代記 ぼくのピンク映画史』読了。

はだかの夢年代記―ぼくのピンク映画史

はだかの夢年代記―ぼくのピンク映画史

 無茶苦茶面白いのは、著者が“ピンク映画”という呼称を考えだして名付けたピンク映画史の中心人物なのだから当然か。兎に角次々と繰り出されていくタイトル、監督、女優、男優に魅了される。現在からはごく一部を除いて観ることが出来ない60年代、70年代のピンク映画を僅かに垣間見ることが出来たが、全く別の日本映画史が存在していると改めて思う。


 新宿紀伊國屋書店で『シナリオ 2008年 07月号』と『東京人 2008年 07月号』購入。
 『シナリオ』は、武知鎮典『JOHNEN 定の愛』、今野勉丘を越えて』掲載。
 『東京人』は、副都心線開通特集なので、というジイさんみたいな動機で購入。

東京人 2008年 07月号 [雑誌]

東京人 2008年 07月号 [雑誌]



 池袋シネマロサで、石井裕也剥き出しにっぽん』(☆)を観る。

 話題の新人監督・石井裕也の作品を観るのは今回が初めてで、早い段階から名前は聞いていたが、岡太地共々、熊切・山下の流れの再来を思わせる評価の高さで、既に長編も量産しているのが頼もしい。
 『剥き出しにっぽん』は大阪芸術大学映像学科卒業制作で、PFFグランプリ他海外の映画祭に多数出品されている。と言って過剰に期待せずに観たが、可能性は感じさせるにしても作品自体には乗れなかった。
 オナニーしたらジイさんが来て分けの分からないことをブツブツ言うし、日常には小暴力がゴロゴロしていて、やたらとイラついて…という状況は良いが、それで作品の中にその世界が築き上げれてしまえば最高の作品になったのだろうが、そうはなっていない、又は未だ力が足りないので、各キャラクター、描写共に中途半端に思えてしまう。だから、主人公ら三人が軽四で出発するまでが長過ぎる。もっと刈り込んでもっと早く出発してここから映画が始まって欲しかった。
 しかし、共同生活を行うボロ家に来てからも映画はあまり湧き上がらない。描写が単発的で次のカット、役者の次のリアクションへと連鎖していかない。気分的なその場その場の描写に終始してしまう。
 しかし、終盤に至って映画が湧き上がり始める。まるでイマヘイ理論の実践を文字通りやったかのように、泥とオマンコにまみれるのだ。そこで初めて、映画が立ちあがって来るのを感じたが、その時は既にエンドマークの近くだった。
 後で読めば、石井裕也今村昌平が好きなのだという。大いに納得したが、重喜劇、濃密なキャラクターを作り出すまでには本作は至っていない。以降の作品がどういった変化を遂げているのか気になる存在ではある。まさか、気取っただけの表層的な描写の映画だけで終わるとは思えないだけに、観続けていきたい。

6月4日(水)

 池袋リブロで『シネアスト 市川崑』と『私のこだわり人物伝 2008年6-7月 (2008) (NHK知るを楽しむ/火)』を購入。

 『シネアスト 市川崑』は、キネ旬から出た市川崑追悼特集が膨れて別冊形式になったもので、以降も別監督でシリーズ化させる模様。つまりは、『世界の映画作家』シリーズ、『フィルムメーカーズ』シリーズに続くものになるのか。
 ただ、これまでと違い、新規記事は少なくなるのではないかと、本書を読み限りは思う。キネ旬本誌に載った記事の再録が大半を占め、主要な役者の新規インタビューで誌面が埋まっている。後は、市川崑方面ではお馴染みな方が書いているというもので、『フィルムメーカーズ』よりも格段に淡泊な印象を持つ。とはいえ、森卓也による市川崑初期作についての記事など、キネ旬ならではの読みたかったものだし、水谷豊の『幸福』に関してのインタビューなども実に貴重で、殊に和田夏十が『幸福』を市川崑フィルモグラフィーベスト3に入る出来と話したとか、当初水谷豊が市川崑に持ち込んだ企画の詳細も知ることが出来て、貴重なものだった。

 
 夕方から終電前まで、西大井の知人宅で編集ソフトの扱いなどの話。
 シネマアートン下北沢閉館の報にショックを受ける。

6月5日(木)

 『キネマ旬報 6月下旬号』購入。
 夜、小雨降る中、シネマアートン下北沢へ。上映30分前だというのに人がワラワラといる。今年の年末まで有効のタダ券を使う。と言うか使ってしまう。劇場前には松江監督も居た。松江監督とシネマアートン下北沢と言えば、何といっても『セキ☆ララ』上映が忘れられない。公開を記念して『あんにょんキムチ』と『カレーライスの女たち』の2本立てとか、『韓朝中在日ドキュメント セキ☆ララ』と『童貞。をプロデュース(第1部)』の2本立てとか、自分は夫々既に他で観ていたものの再見だったのでそうでもないが、この劇場で、初めて松江作品と出合ったという人も多かった筈。そういう人にとっては、松江作品=シネマアートン下北沢という印象が強いのではないか。
 劇場存続を求める署名活動をされている方が居たので署名する。閉館理由は色々言われているが、劇場そのもの、又、劇場という“場”自体に罪はない。
 
 レイトショーで福居ショウジン出れない』(★★)と『the hiding -潜伏−』(★★★)を観る。

 終映後、階段を降りてきて、いつものように駅に向かおうとしたが、もうこれでここに来るのは最後かもしれないと一瞬思うも、同じ状態での存続は難しいかもしれないが、“場”は何とか残って欲しいと思う。自分にとって下北沢は、映画を観た後に古本屋を周って古着みたりCDみたりしながら歩く場所だから。

 とりあえず、シネマアートン下北沢で観た映画の一覧を記す。2005年以降分のみだが、『引き裂かれたブルーフィルム』『あんにょんキムチ』『カレーライスの女たち』『韓朝中在日ドキュメント セキ☆ララ』『童貞。をプロデュース』『東シナ海』『僕は神戸生まれで、震災を知らない』『にっぽん・ぱらだいす』『暴走パニック 大激突』『ジーンズブルース 明日なき無頼派』『資金源強奪』『INAZUMA稲妻』『赤猫』『競輪上人行状記』『ホッテントットエプロン-スケッチ』『出れない』『the hiding -潜伏−』となる。もっと観ていたように思ったが、かなり少ない。ただ、『裸々裸三昧』や、『映画時代』を買いに来たり、隣の古本屋『びびび』に寄ったついでにチラシを貰いに行ったりと、いつもそこに当然のように在った劇場だったので、それが無くなるということは考えられないし、信じられない。

6月6日(金)

 昼過ぎで仕事は終了。と言っても準備その他で前日から起きっぱなしなのだから、楽ではないのだと、誰に言うでもないが一応。
 駅前の書店で『STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2008年 07月号』と『ダ・ヴィンチ 2008年 07月号』を購入。
 ボイスはZINEの特集。映画方面では『DVU』と『TRASH UP!!』が登場。

ダヴィンチ 2008/07月号

ダヴィンチ 2008/07月号

 秋葉原でDVD、ウッディ・アレンの『さよなら、さよならハリウッド』を980円で購入。

さよなら、さよならハリウッド [DVD]

さよなら、さよならハリウッド [DVD]

 渋谷へ。ユーロスペースで、熊坂出パーク アンド ラブホテル』(☆☆☆)を観る。

 『映画芸術』や『シナリオ』を読めば脚本家筋に評判が悪いようだが、観てみると悪くない。ラブホテルの屋上が公園になっているという、『ゆけゆけ二度目の処女』や『青空にいちばん近い場所』等と同じ屋上映画だが、屋上映画は難しいという印象がこちらにはあり、安易に屋上を設定しようものなら、とても長編映画を成立させることはできないのではないかという思いがある。屋上でなければならない必然、屋上が映画の空間として息付かせるだけのものを持ち、それを活かす演出がなければ、単に屋上をこれ見よがしに設定しただけだと見え透いてしまう。『ゆけゆけ二度目の処女』は、屋上を開かれた密室であると解釈することで、どこへも行けるようで行けない、手が届くようで届かない場所として、屋上が密室であると規定して描いたことで秀作になった。
 『パーク アンド ラブホテル』も、屋上である必然を考えると弱い。ラブホテルの上に公園がありました、という発想が先行している。本作を地に足を付けさせたのは、りりィだ。りりィの無表情が素晴らしい。もし生きていれば、この役には岸田今日子あたりも似合ったかもしれない。しかし、岸田今日子は熟練の演技者なので無表情の演技をしても「無表情の芝居」をするだろう。皺一本で演技出来てしまう。その点、りりィの演技は無防備だ。本当に無機質な無表情を装う。その無機質さが、この作品を救い、ともすれば過剰な作り込まれた世界に入ってしまうのを防ぎ、地上の現実感と屋上の非日常的世界を結びつける。もし、りりィが居なければ、最初に登場する銀髪の少女など、如何にも自主映画的世界に収束されるだけで終わっていただろうが、りりィが相対することによって、その存在が定着していたのではないか。
 作劇として、家出した銀髪の少女、倦怠期でウォーキングを重ねる妻、誰とでも寝る女子大生という三人の女性のエピソードを連ねたオムニバス形式にしたのは、屋上に依存した作りにしない為にも良かったとは思うが(その程度で感心するなと思うかもしれないが、最近は本当にラブホの屋上に公園がありましたというだけ程度の何もない映画や、これ見よがしに何かを映し出しているだけの映画は幾らでもある)、各エピソードに関しては、脚本家諸氏が注文を付けたように、もっと幾らでも膨らませることができるだろうし、明確にエピソードを分けるのではなく、混ぜてしまっても良かったとは思う。典型的な団子の串刺し構成という批判も当たっているとは思う。しかし、それでも幾らでも過剰になりがちな寓話性を持った題材でありながら、抑制された演技を見せるりりィを狂言回しに、シンプルな物語を連ねていく姿勢は好ましく、ホテルの持つ湿気と、雑然とした街並みの中に浮き立つ屋上の公園が映えていたこともあり、好感を持って観終わることができた。
 パンフレット購入。800円。


 続いてシネマヴェーラ渋谷の「最終凶器・鈴木則文の再降臨」にようやく初参加。『堕靡泥の星 美少女狩り』(☆☆☆★★)と『温泉スッポン芸者』(☆☆☆★)を観る。

温泉スッポン芸者 [VHS]

温泉スッポン芸者 [VHS]

 二本ともニュープリントで観ることが出来るのが嬉しい。『堕靡泥の星 美少女狩り』は長過ぎるとも思うが、あの時限爆弾的放尿を大きなスクリーンで観ると凄まじい迫力で、鈴木則文の極北的作品だと改めて思う。
 『温泉スッポン芸者』は、傑作『温泉みみず芸者』に比べればやや落ちるという思いがあり、掛札昌裕が原案のみの参加で、本作の脚本が関本郁夫鈴木則文のせいかと思っていたが、再見すると単純に池玲子杉本美樹のどちらがより好きかというところに行き着くのではないかという気がする。
 開巻の東映マークに間抜けなスッポンという音が被るところからして笑えるし、川谷拓三のストリップの司会者の登場からして嬉しくなる。かぶりつきで見ながら身悶えしている由利徹の姿を見るだけで幸せな気分になるのだから、そういった地点に立っている作品というのは、幸福な作品なのだろうと思う。荒木一郎の軽快な曲に併せて杉本美樹が着物姿でバイクに跨り疾走する姿に泣く。
 『木枯らし紋次郎』キャンペーン中と思わしき、中島貞夫菅原文太笹沢左保が登場するのも良いし、我らが中島貞夫の用心棒ぶりに笑う。


 渋谷TSUTAYAで中古ビデオ・ラウール・ウォルシュの『虹の都へ』を500円で購入。

虹の都へ [VHS]

虹の都へ [VHS]

6月7日(土)

 アテネ・フランセ文化センターへ「佐藤肇を再見する」に行く。上映作は『怪談せむし男』と『乱れからくり』。目当ては大和屋脚本の『乱れからくり』。

 『怪談せむし男』(☆☆☆★★)は昨年のシネマヴェーラ渋谷「妄執・異形の人々II」で観て以来の再見。理詰めで考えれば妙な箇所もあるが、本格的ゴシックホラーとしてこれだけのムードを醸し出した日本映画が東映東京から生まれていることに改めて感嘆する。二回目の鑑賞だったが全く退屈させない。西村晃のせむし演技の絶品さは何度でも観たい。

 『乱れからくり』(☆☆☆)は、作品や佐藤肇というよりも、脚本の大和屋竺一点での興味だったが、『愛欲の罠』でも大活躍だった人形と大和屋という点では気になったが、作品としては古城都の宝塚演技と宝塚出身ということの強調が足を引っ張っていて、2時間サスペンスとしては楽しめる作りだが、作品の評価としては特筆すべきものはない。それにしても『茶々 天涯の貴妃』の和央ようかにしてもそうだが、宝塚調が抜けきらない演技を見せられるのは相当辛い。

 終映後、木全公彦氏による講演「あるディレッタントの肖像」。以前、同じくアテネでの清水宏の上映時の講演でも濃い話を繰り広げていたが、今回は控えめとは言え、ニュープリント作成前に入手したという『怪談せむし男』のイタリア語吹き替え海賊版ビデオを流したり(クレジットは全て英語表記に差し替えられており、日本人名ではなく適当に作られたと思しき外国人名が書かれているというとんでもない代物)、『乱れからくり』の映画版を流してテレビ版との相違点を見せるなど、やはり濃い。東映東京撮影所製作の作品はプリントが残っていない作品が多く、映画史的にポッカリ抜けているという話など興味深い。確かに『怪談せむし男』など、ニュープリント作成がなければ自分などは観ることも、知ることもなかっただろう。本作の脚本が乱歩や横溝作品を手掛けた高岩肇という話を聞いて、高岩肇が『八ツ墓村』『犬神家の謎 悪魔は踊る』『蝶々失踪事件』等を書いていたことを思い出し(とは言え『蝶々失踪事件』以外は観ることが出来ない作品だが)、本作の加藤武の演技パターンが金田一シリーズと同じものが多いのは、横溝正史という一点での共通項を見出してみたが、まあ、それは強引かもしれない。

6月8日(日)

 午前中に起きて上野オークラで渡辺護の新作を観ようという算段だったが、二度寝してしまい起きたら、秋葉原で無差別殺傷事件が起きていて茫然とする。早速、友人親族から秋葉原に行ってないかという確認電話が続け様にかかってくる。普段から割合秋葉原によく行っていることが知られているせいか。とは言え、最近の再開発以降は土日の混雑に辟易して平日の仕事の合間の僅かの時間立ち寄って、必要なものを早々に購入して立ち去るようにしているので、基本的に日曜の歩行者天国になっている状態の時には行かないのだが、それでも上野で時間が早すぎれば立ち寄った可能性や、普通に歩く場所なので、恐怖する。
 
 古書店で『ゴダール―新たなる全貌』『笑芸人VOL.1』購入。各500円。
 『笑芸人VOL.1』の特集は「土曜8時テレビ戦争/ひょうきん族VS全員集合のテレビ史に残る大激戦の足跡」。

ゴダール―新たなる全貌 (KAWADE夢ムック)

ゴダール―新たなる全貌 (KAWADE夢ムック)


 中野ブロードウェイレコミンツで、中古DVD・山下敦弘の『くりいむレモン スペシャルエディション』を2480円で購入。


  ユナイテッドシネマ豊島園で、マイケル・デイヴィスシューテム・アップ』[SHOOT 'EM UP](☆☆★★★)を観る。
 一夕のエンターテインメントとしては申し分ないB級アクション。兎に角弾丸を発射させることに主眼を置いた作品なので、場所移動や、何故そこまでして赤ん坊を狙うのかとか、敵がどうやって居場所を突き止めているのかといった理屈は後回しで。それでも、86分間ひたすら撃ち続けることを課した快作だった。

6月9日(月)

 シネマアートン下北沢での最終日の支配人の挨拶がYOU TUBEにアップされていたので見る。
 そこに当たり前のようにあったものが突如、映画館以外の原因で無くなってしまうのを目の当たりにするのは辛い。せめて、なんとか映画館という場を残してくれないものか。

6月10日(火)

 新宿ブックファーストで、浅野いにおおやすみプンプン (3)』と、森下くるみすべては「裸になる」から始まって』を購入。

おやすみプンプン 3 (ヤングサンデーコミックス)

おやすみプンプン 3 (ヤングサンデーコミックス)

すべては「裸になる」から始まって (講談社文庫)

すべては「裸になる」から始まって (講談社文庫)

 某作をサンプルDVDで観る。

6月11日(水)

 映画評論家・水野晴郎先生死去。76歳とのこと。最近はかなり衰弱されていたので驚きは少ないが、晩年の監督業進出はそれまでの経歴からすれば眉を顰める層もあるだろうが、本人が楽しんでいたし、それを好意的に受け取る若い観客層も居たのだから、幸せな関係を結んでいたと思う。『日曜洋画劇場』の淀川さんと『金曜ロードショー』の水野さんの解説で映画の基本的な楽しみ方を幼少時に教えられた恩は忘れない。
 それにしても、淀川長治にしろ、水野晴郎にしろ、映画業界でも際立つ変人だが、独特の口調といい、オタク喋りの特徴を持っていると言えなくもないが、そういう人がテレビに力があった時代だったからということもあるだろうが、又、本人が内攻的ではなかったせいもあるのだろうが、普遍性を持って世間に受け入れられていた時代というのは、映画解説者という職業がほぼ消滅している現在からすると、不思議なものだったように思う。
 淀川さんに比べられて、水野さんは悪く言われがちだったし、後説で、その日の放送映画とは何の関係もないのに何でアメリカンポリスの格好をしている写真を見せられなければならないのかとか、そんなもん見せる時間あるなら映画をカットしないで放送しろと『テレパル』の映画欄のオリジナル時間と放送時間の差を見ながら今週の映画は10分カットしてあるだけだから観ようとか、50分もカットしてあるなら観なくて良いなとか思いながら観ていた日々を淀川さんと水野さんの顔と共に思い出す。


 シネマヴェーラ渋谷最終凶器・鈴木則文の再降臨」の最終回に滑り込む。『女番長ゲリラ』(不完全鑑賞につき評点なし)と『すいばれ一家 男になりたい』(☆☆☆★★)を観る。
 遅刻したので『女番長ゲリラ』の巻頭5分ほどを見逃す。
 『すいばれ一家 男になりたい』は、今回の特集用に柳下毅一郎氏が中心となって有志のカンパでニュープリントが焼かれた作品で、結構昔から鈴木則文を観ているという人でも全く観る機会が無かったという作品だ。それだけに今回のニュープリントは快挙。といって、過剰な期待を持たずに観たが、やはり面白い。大傑作だとかそんな作品ではないが、鈴木則文を語る上では欠かせない作品だろう。
 開巻の十数人の女たちに詰問されている山城新伍が、やがては女たちに抱えられて橋から川へドボンと放り込まれアヴァンタイトルを眺めながら、これはまるで鈴木則文版『黒い十人の女』だと市川崑主義者としては思いながら観始めたが、山城新伍の奔放な演技と、それに引きずられたら相当な破綻に至るのではないかと思わせつつ、きっちり纏め上げる鈴木則文の演出にはやはり圧倒される。観終わって茫然としつつ、もう一度みたいと呟きたくなる作品だった。
 ただ、プリントが随分青っぽいが、こんなものなのかと思っていたら、今回のニュープリント資金カンパにも協力した佐々木浩久監督が色調について自身のブログで書いていたので、なるほどと思う。
 
 ところでネタばれになるが、自分は爆弾フェチなところがあり、爆弾や爆発で終わる映画には目がない。『現代好色伝 テロルの季節』や『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』に過剰に入れ込んでしまうのも爆弾という一点に尽きる。それだけに、今日の二本立ては爆弾映画の二本立てなので、ちょっと興奮してしまい、『女番長ゲリラ』のダイナマイトがセットされた車が走り出す瞬間や、『すいばれ一家 男になりたい』で山城新伍が不発弾を抱えて登場したりすると、観ていて尋常でない状態に陥り、明らかに過大評価してしまうのだが、それでも作品自体の魅力はそれらを除いても十分あると思う。

 渋谷TSUTAYA清水宏』のDVDをレンタル。

簪(かんざし) [DVD]

簪(かんざし) [DVD]

 映画監督・向井寛死去の報。先日遂にデビュー作『肉』がアメリカで発売されたので入手したところなのに。『続肉』とかも面白そうなのだが。どこかで追悼上映やらないものか。

6月12日(木)

 上野オークラで、渡辺護喪服の未亡人 ほしいの…』(☆☆★★★)を観る。
 物凄く奇をてらっているようで、王道のポルノを堂々とやってのける渡辺護に感動する。と、同時に国映だし、渡辺護なんだからもっとハメを外してしまっても良かったのにと、長い長い後半のカラミを観ながら思う。夫が死んで、エロテープが見つかるという展開に『神様の愛い奴』の奥崎謙三が亡き妻の遺品にエロテープが混じっていて、「何でこんなもん混じってるんやろ」と呟いていたのを思い出した。

 久々の上野オークラだが、極力土日の朝一の辺りに来たいと思いつつ、結局平日の夜20時45分の回だったので、ま、色々居る。前の席に座った途中から入ってきたハゲのオッサンと姉ちゃんは、ハゲが明らかにローターでグリグリしているのが後ろからも分かり、姉ちゃんが身悶えているのが頭の振り具合で分かる。田口トモロヲ寺島しのぶみたいに綺麗なもんじゃない。しかし、横の列や後ろのオッサン達の興味津々な覗き込み具合がアカラサマで笑いそうになる。ハゲ&姉は15分もしない内に出て行ったが、次に紋付き袴でロン毛を後ろで括ったバンコラン少佐みたいなデカイ男が場内をサーっと移動して男を物色し始めた。通り過ぎると香の匂いが凄く立ち込める。一体どこから湧いてきたんや、この和製バンコランは、と思う。
 上野TSUTAYAで中古ビデオ、荒戸源次郎ファザーファッカー』と、林海象海ほおずき』を購入。嗚呼90年代中盤の匂い。

海ほおずき [VHS]

海ほおずき [VHS]

6月13日(金)

 シネマヴェーラ渋谷最終凶器・鈴木則文の再降臨」へ。最終回にしか間に合わず『現代ポルノ伝 先天性淫婦』(☆☆☆★★★)を観たのみ。

現代ポルノ伝 先天性淫婦 [DVD]

現代ポルノ伝 先天性淫婦 [DVD]

 最近ビデオで観返していたが、やはりスクリーンでニュープリントで観れるのは嬉しい。DVDも買わねば。池玲子がやはり良い。週末にスクリーンでニュープリントで池玲子を観れるだけで幸福。

6月14日(土)

 夜、青山ブックセンター本店で、「『童貞。をプロファイル』(二見書房)刊行記念 松江哲明×大槻ケンヂ トークショー」へ行く。

童貞。をプロファイル

童貞。をプロファイル

 オーケンファンが半数を占める中で(ロリータファッションの娘は普通松江作品は観ない)松江監督負けるなと思いつつ見ていたが、松江監督の振りに、オーケンが的確に当てて行くので心地良いぐらいトークが弾んで見ていて気持ち良かった。
 トーク終了後サイン会となり、購入が大幅に遅れていた『童貞。をプロファイル』を購入。松江監督にサイン頂く。
 それから、来月阿佐ヶ谷LOFT Aで行われる『ハメ撮りの夜明けとセックスと嘘とビデオテープとウソ』上映会用のフライヤーが出来上がっていたので貰う。先月分と先々月分の日記を一気にアップしたら、直ぐに松江監督から連絡があり、上映やるからチラシにブログの文を使いたいとのことで、「書き直しますよ、一発書きだから」と言ったら、雑な方が良いとのことで、それならどうぞということで使用されることに。しかし、部分抜粋だと思っていたので、フライヤー両面に渡る全文掲載には驚く。これなら、やっぱり書き直した方が良かったかなとも思うが、荒くて構成も不味いけど、とにかく『ハメ撮りの夜明け・完結編』が観たい!という個人的願望と、この二本を続けて観たいという思いだけは伝わるのかなと。たぶん松江監督もその部分を買ってくれたのだと思う。このブログを始めて間もない時に『ハメ撮りの夜明け・完結編』のダイジェストを観て、一気にハマジムや松江監督のAV進出に興味を持った。それから4年、未だ本篇は観ていないが、ようやく観ることができる日が訪れ、そのフライヤーに自分が未だ観ぬ作品への期待を書き連ねているというのは、何とも不思議な気もするが、又それがブログの一発書きの文をそのまま使って載っているのが、ブログの縁というか何というか。ともあれ、多くの観客と共にこの幻の作品を観ることが出来ればと思う。
 
 渋谷へ下って、友人の飲み会に合流して少し飲んでから早々に帰宅。
 副都心線に乗ってみる。今日から渋谷から最寄駅までが乗り換えなしの1本になったので、飛躍的に便利なことに。と言ってももうすぐ引っ越す予定だけれども。

 帰宅後、近所のGEOが百円レンタル日だったのを思い出し、上限の10本を借り出す。
やくざ戦争 日本の首領』『日本の首領 野望篇』『日本の首領 完結篇』『くりいむレモン 旅のおわり』『紙屋悦子の青春』『憑神』『仁義なき戦い 謀殺』『パビリオン山椒魚』『マリー・アントワネット』、後はB級アイドルの着エロDVD。

やくざ戦争 日本の首領<ドン> [DVD]

やくざ戦争 日本の首領<ドン> [DVD]

日本の首領<ドン> 野望篇 [DVD]

日本の首領<ドン> 野望篇 [DVD]

日本の首領<ドン> 完結篇 [DVD]

日本の首領<ドン> 完結篇 [DVD]

くりいむレモン 旅のおわり [DVD]

くりいむレモン 旅のおわり [DVD]

紙屋悦子の青春 [DVD]

紙屋悦子の青春 [DVD]

憑神 [DVD]

憑神 [DVD]

新仁義なき戦い 謀殺 [DVD]

新仁義なき戦い 謀殺 [DVD]

マリー・アントワネット (通常版) [DVD]

マリー・アントワネット (通常版) [DVD]

6月15日(日)

 中野ブロードウェイへ。まんだらけで『東映実録やくざ映画 無法地帯』を945円で購入。

東映実録やくざ映画 無法地帯

東映実録やくざ映画 無法地帯

 レコミンツで中古DVD、神代辰巳悶絶!!どんでん返し』と、田中登真夜中の妖精』を購入。各2880円。
悶絶!!どんでん返し [DVD]

悶絶!!どんでん返し [DVD]

真夜中の妖精 [DVD]

真夜中の妖精 [DVD]

 田中登の『真夜中の妖精』は、ジェネオンのロマンポルノDVDのラインナップに当初入ってなかったが差し替えで発売が決まり、お陰で幻だった作品が観ることができるようになった。

 中古DVDを扱う新店が出来ており、昨日オープンした模様。狭い店内なので品数はそれほど多くないが、何だか雑な値段の付け方をしているようで、結構安い。結局最初に目を引いたIVCのRKO CLASSIC HORRORが新品で半額以下の1500円だったので、『恐怖の精神病院』と『死体を売る男』を購入。

恐怖の精神病院 [DVD]

恐怖の精神病院 [DVD]

死体を売る男 [DVD]

死体を売る男 [DVD]

 阿佐ヶ谷LOFT Aへ「ガンダーラ映画祭スピンオフ!!『我ら天下をめざす〜featuring Takeshi Yamamoto〜』」を見にいく。
 開演時間丁度に入ったので、既に満席。何とか席を確保する。
 山下敦弘×向井康介×山本剛史の三人によるトークと高校時代の激レア映像上映。大学時代に学祭で観てたガンヌ国際映画祭とかとノリは同じ。10年経っても客席に居る俺は何をしているのか…。

 上映は、まず『我ら天下を獲る』(☆☆☆)。
ガンダーラ映画祭で観て以来の再見だが印象は特に変わらず。
 トークを挟みながら山下敦弘ロボコップ』、後は1992〜93年と思しき時期に撮られたビデオを散発的に流しながら、ゆるゆると展開していく。
 発見だったのは、山本剛史の演技パターンは既にこの時期に確立されていたことが分かったことで、それにしても、その関係が15年経っても続いているのが凄く、そのまま商業枠に移行できてしまったことと共に、山下敦弘だけに限ったことではないが、自主映画から商業枠に移行する際、一昔前なら監督のみ引っ張られるだけだったが、現在は監督以外にも脚本、撮影、俳優もひっついてくるが、

 後半は、客席に来ていた細江祐子と松江哲明も壇上に上がり、結果『ばかのハコ船』のスタッフ・キャストが揃うという展開になったのは意外だった。しかし、松江さんの山本剛史の役柄についての核心を突く問いかけはなかなかのもの。山下考案のネタを芸大内では使い回して良いのかという『そんな無茶な!』にも通じる疑問点ではある。
 又、松江監督が『ハメ撮りの夜明け・完結編』の予告編を流したので、これも4年ぶりに再見できた。

6月17日(火)

 新宿トーアで望月六郎JOHNEN 定の愛』(☆☆)を観る。

JOHNEN 定の愛 [DVD]

JOHNEN 定の愛 [DVD]

 石井輝男田中登大島渚大林宣彦に続く望月六郎による阿部定映画。未見だが、粟津潔の実験映像に『阿部定』という作品もある。又、映画化は果たせなかったものの、若松孝二足立正生大和屋竺に夫々阿部定映画の脚本を打診している。詳細は不明だが、足立脚本ではラストに国立競技場のトラックを切り取った男根を持った定が一周するという実に足立らしい飛躍が用意されていたという。大和屋版は、結局出だしのみで脱稿には至らなかったらしい。又、『愛のコリーダ』も、当初は深尾道典に脚本が依頼され、実際に執筆されるも予定が大幅に遅れたことから大島が自身でオリジナル脚本を書き下ろし、深尾は『ある女の生涯』という未完成脚本を後に単行本化している。
何故こうも多くの才ある監督や脚本家が阿部定の映画化に挑もうとするのかが、もうひとつ自分にはピンとこない。勿論、『明治・大正・昭和 猟奇女犯罪史』も『実録・阿部定』も『愛のコリーダ』も傑作だと思うし(自分は田中登vs大島渚という比較でどちらが優れているという見方はせず、双方傑作だと思う)が、だからといって阿部定調書を基にするしかない、そう変化もない物語を何度も映画化する必然は感じない。
 そういう中で、大林宣彦の奇々怪々な『SADA』から十年を経て再び阿部定が映画化された。今度は杉本彩で―と聞いて、これは期待して良いのではないかと思った。脱ぎもしない女優(黒木瞳)がやるより、杉本彩が思い切り脱いで官能劇として良い形で成立すれば、これまでとは違った地点に立った作品が出来るかもしれない。監督は望月六郎だし、作品の見た目はVシネを劇場でかけてる風味が強いが、芸術映画でもポルノでもない現在ならではのプログラムピクチャーとして、小味な面白さが出れば、と好意的に期待しながら劇場に入った。
 性以外の余計な侠雑物を一切入れることを禁じた大島渚の方法論は、殊に阿部定に関する限りは正しいと思う。『SADA』でもそうだったが、性以外の要素が入れば入るほど阿部定である必然は薄まり、吉蔵との愛憎が薄まってしまい、男根の切り取りという猟奇的行為の衝撃も後退する。とは言え、性以外の侠雑物を入れない方法に沿って既にロマンポルノとハードコアで二本も傑作を作られてしまっているので、同じ方法を取るわけにはいかない。大林宣彦は『SADA』で実にらしい迂回路を作りだしていたが、望月六郎の場合は―、というよりも今回は原作・脚本の武知  の取った方法が、現在と過去を結びつけ、アングラ的手法で映画化するというもので、確かにそれも現在阿部定をやるなら有りだと思う。
ただ、この手法は熟練の監督を起用しても陳腐になる時は、とことん陳腐になってしまうので、相当な賭けだと思ったが、結果は残念なものだった。
 結局は、過剰に塗りたくれば塗りたくるほど、<アングラ風味>の底の浅さが露呈してしまい、むしろ徹底的にセットもシンプル化した上で一点的にアングラ的趣向を入れた方が良かったと思う。ただそれでは本当にアングラと化してしまい、<アングラ風味>だけを求めている側からすれば、これぐらい過剰にしなければいけないのかもしれないが、観ている側としてはゲンナリさせられるのみだった。
 更に出演者全員のくどい演技に付き合うのに辟易させられ、杉本彩は文節区切りまくりの上ずった声で見栄を切ったりするものだから辛く、中山一也や内田裕也も同様にブツ切りの台詞を呟くのを眺めながら、この三人には殆ど台詞なんていらないのにと思った。夫々唯一無二の存在感を有しているのだから。内田裕也なんて、何も言わず黙って立っているだけで凄いと改めて思う。だからあんなに喋らせる必要もないし、たぶん現場で色々あれをやりたいとか言ったんだろうな裕也さん、と思ってしまうのだが、あの女装やら裾をめくり上げて、黒々としたヘアが見えるといった辺りなどやり過ぎで、内田裕也の魅力は分かるにしてももっと抑制しても十分魅力的だと思う。同様に、中山一也もあの年齢にしてあのギラギラした存在感は現在の漂白された多くの男優には無い得難い魅力があり、たぶん『愛のコリーダ』で当初のキャスティング案通りに藤竜也ではなく荒木一郎が演じていれば、こんな吉蔵になったのではないか。パターンから外れた芝居を見せていくという上でも。
 現在との結び付きももうひとつで、都井睦雄の子孫を匂わせる小説もあったが、阿部定がまだ生きていたとかそういった設定で強引にでも結びつけてくれた方が良かったのかもしれないとか、では現在阿部定をやるならどうするか、と考えさせられるのは、やはり何度も映画化されているだけの魅力を持っている理由なのかもしれない。


 ユナイテッドシネマ豊島園でロバート・ルケティックラスベガスをぶっつぶせ』[21](☆☆☆★)を観る。
 ラスベガスってえのは、ぶっつぶされたり、やっつけられたり大変だなあと思うが、原題はゲームと主人公の年齢の意味で『21』。
 さえない秀才がその能力を活かしてラスベガスで大当たりして、姉ちゃん手に入れてウハウハになって、怖いオッサンにビビらされる話だが、テンポよく語られるので飽きさせない。クライマックスのどんでん返しは、もう一捻りして驚かせて欲しかった。


 『週刊大衆シャイ! 7月12日号』を購入。
 目当ては「平野勝之×カンパニー松尾×山下敦弘×松江哲明」によるAV対談。次のページをめくったら、女子力の特集があり、座談会出席者を眺めると、辛酸なめ子×堀越英美×真魚八重子×みくにまことといったリビドーガールズな顔ぶれ。この対談二つとも、雨宮まみによる取材・構成。無茶苦茶面白いが、唯一にして最大の不満は短いことで、二つの記事共にもっと読みたい。夫々一冊の本で読みたいぐらい。

6月18日(水)

 時間が余ったので、シネマヴェーラ渋谷最終凶器・鈴木則文の再降臨」へ。『温泉みみず芸者』(☆☆☆☆)を観る。
 近年劇場で観ているのでパスしようとしていたが、時間が空いたのを良いことにやはり行ってしまう。何度見ても心地良い。艶笑譚として極上のものだけに、ひたすら愛おしくスクリーンを見つめる。家族揃って並んでいる中、池玲子が「風が気持ちいい」と言い、バックに高らかに荒木一郎によるテーマ曲が流れるラストにまた涙する。

 ユーロスペース廣木隆一縛師 Bakushi』(☆☆★★★)を観る。
 ひたすら縛っていく様を淡々と記録していく。高圧縮ドキュメンタリーだけが良いとは全く思わないが、余白の広い作品だけにそこを埋めるべく丹念に描かれる縛っていく過程に緊縛美を感じないのは、ビデオ撮りの汚いキネコだから肌の色も死んでしまっているからか。
 監督がピンク出身の広木隆一なので、今どきSM如きでさも過激でしょうというような視点になることはなく(一般映画、テレビ出身監督だとそんなことが起こるのだ)、その世界をすんなりと受け入れて記録しているのは好感が持てるものの、縛る側と縛られる側の関係性、特異性、あるいは縛るという行為に、もう一歩踏み込んで欲しかった。

6月19日(木)

 シネマスクエアとうきゅうで、ジャウマ・バラゲロパコ・プラサの『REC/レックREC(☆☆☆)を観る。
 全編ビデオの主観映像による密室ホラー。『BWP』『クローバーフィールド』など、主観映像モノは既にお馴染みなので、その方法論は珍しくも何ともないが、TVクルーという設定が有効だと思ったのは、画が安定していることで、プロのカメラマンが撮っているからハンディであっても無闇にカメラを振り回したり、不安定な画を延々と見せられることがない。素人っぽいグラグラの画がリアリティを増すなんてことはなく、小手先の誤魔化しにしか思えない。それに『BWP』などは、映画学校の卒業制作という体なのに、あんなにカメラがグラグラしていて良いのかと思った。
 マンション自体を密室にして、直球で異物を混入させる演出が良い。使い倒されたハリウッドホラーを観ているより面白い。77分という尺もこのネタで引っ張れる限度を見極めているし。
 ただ、もう一歩、カメラマン側にも人格が欲しかった。こういう事態に陥った場合、いつまでカメラを持ち続けていられるか、何撮ってんだ、助けろよというような選択が迫られたり、撮ることを躊躇したりといった状況が大きくではなく、サラリと入っていれば、主観映像の面白さがもう少し出たのではないか。
 一夕のエンターテインメントとしては、悪くない満足感で劇場を後にした。


 池袋シネマ・ロサで、石井裕也ばけもの模様』(☆☆★★★)を観る。

 初見作だった『剥き出しにっぽん』は、何故そこまで高く評価されているのか分らなかったが、今回はある程度納得できた。前作は16mmの機動力の問題もあって、恐らく撮影のコントロールが困難であった様子が伺えたが、今回はビデオなので、引き尻を含めてかなり思い通りに行ったのではないかと思う。だから、撮影・編集の巧みさがよく出ていた。
前作では過剰過ぎる箇所やブツ切りだった人物の描写に違和感があったが、今回はそんなこともなく、ある程度抑制されていたので観易かった。
 映画美学校や東京藝大の知的で清潔な作りの作品ばかり観ていると、石井裕也の知性の欠片も感じさせない下品さが嬉しくなるが、もう少し抑制して過剰な展開や下品さを抑えれば、うまく寓話性や重喜劇的要素が出るのではないか。山下敦弘と比べる必要など全くないが、敢えて言えば、クレージーキャッツドリフターズの違いということか。
 

6月20日(金)

 正午過ぎで仕事は終了。
 午後から某誌打ち合わせ。
 夜、ドイツ文化センターで「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2008」にようやく初参加。『マリア・ブラウンの結婚』[Die Ehe der Maria Braun]を観る。前日から寝てなかったせいか上映始まる前から寝てしまい茫然となる。何しに来たんだか。

マリア・ブラウンの結婚 [DVD]

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 表参道まで青山通りを歩き、青山ブックセンターへ。『nu VOL.3』が入荷しているかと踏んだが無かった。
 渋谷HMVで『キネマ旬報 7月上旬号』『ROCKIN'ON JAPAN (ロッキング・オン・ジャパン) 2008年 07月号』『サイゾー 2008年 07月号』購入。

キネマ旬報 2008年 7/1号 [雑誌]

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サイゾー 2008年 07月号 [雑誌]

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6月21日(土)

 仕事終わらず明治学院大学の「日本映画史シンポジウム第13回 女侠繚乱 日本映画のなかの女性アクション」に行けず。真魚八重子さんの『70年代東映ピンキーヴァイオレンス』だけでも聞きたかっただけに無念。まあ、例年通りなら来年には単行本が出るだろうから、そちらを待ちたい。せめて、誰か言及した作品のタイトルだけでも挙げておいてくれまいか。本が出るまでに未見の作品があれば観ておきたいので。
 17:00のアテネ・フランセの「ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー映画祭2008」にも間に合わず。
 結局、19:00からの『何故R氏は発作的に人を殺したか?』[Warum läuft Herr R. Amok?]にかろうじて間に合う。超満員。立ち見も出ている。本当に発作的に人を殺したので驚く。石井裕也の呼吸とファスビンダーの呼吸を考える。といっても石井裕也ファスビンダー的とかそんなんではない。


 水道橋駅近くの旭屋書店が閉店するとかで、新品DVDが300円〜500円ぐらいの凄い投げ売りをされていて驚く。熊切和嘉空の穴』と、瀬々敬久Hysteric』購入。総計750円。新品なのに。別の店で中古DVD『ゴダールの決別』を購入。1500円。

空の穴<特別版> [DVD]

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ゴダールの決別 デジタルリマスター版 [DVD]

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 中古ビデオ店が全品半額だったので、相米慎二風花』と、大林宣彦SADA』購入。計300円。

風花 kaza-hana [DVD]

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SADA [DVD]

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 池袋ジュンク堂で『映画秘宝 2008年 08月号』と『情況 2008年 06月号』購入。
 『状況』は、一冊丸々『実録・連合赤軍』特集。足立正生が編集に参加していることもあって『映画批評』が復刊したかのような印象。本当は『映画芸術』がこれぐらいの大特集を組むべきなのだろうが、荒井さんはこの作品がお好きではないのであの規模の特集に止まったのだと思うが、あのムック本以外に批評方面からあの作品を捉えた本が出るべきだと思っていたので、待望の一冊というべきか。「僕たちがなぜ連赤事件にこだわるのか=若松孝二+西部邁+足立正生」「あれから36年-兄・犬死にした仲間たちへ=加藤倫教」他、植垣康博梁石日荒井晴彦らが登場。殊に若松孝二西部邁足立正生の鼎談や、足立が荒井晴彦に『実録・連合赤軍』批判を聞くのが面白く、荒井さんの“食と性”への描写不足の批判に納得する。本当は映画評論家方面からこの作品を論じたものがもっと出て良い筈だが。

映画秘宝 2008年 08月号 [雑誌]

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情況 2008年 06月号 [雑誌]

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6月23日(月)

 『放送禁止6』を少しだけ眺めると、DV夫が吉岡睦雄であることに気付き、俄然面白くなる。夫の名は「トツオ」(笑)。

6月24日(火)

ドキュメンタリー監督・土本典昭死去。
 アテネ・フランセなどで、ごく当たり前のようにご本人の話を聞きながら初見の作品を次々と観て感嘆していたが、今となってはもう二度とそれが叶わない贅沢な時間であったと改めて思う。『パルチザン前史』が今のところ自分のベスト作。未見作も多いので今更ながら観ていかねばと思う。

6月25日(水)

 池袋ジュンク堂で、蓮實重彦映画崩壊前夜』と、『創 2008年 07月号』『Invitation (インビテーション) 2008年 08月号』を購入。

映画崩壊前夜

映画崩壊前夜

創 (つくる) 2008年 07月号 [雑誌]

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Invitation (インビテーション) 2008年 08月号 [雑誌]

Invitation (インビテーション) 2008年 08月号 [雑誌]

 『映画崩壊前夜』は、予想通り『インビテーション』他に書いていた近年の批評をまとめたもの。
 『創』は日本映画特集。


 新文芸坐ステファン・ルツォヴィツキーヒトラーの贋札』[DIE FALSCHER/THE COUNTERFEITER](☆☆☆)を観る。

ヒトラーの贋札 [DVD]

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 公開時、終了間際に行こうとしていたら、アカデミー外国語映画賞を獲ってしまったので激混みで観れず終いだったので、ようやく観る。
 無駄な尺伸ばしをせずに、シンプルな構成で見せるのは好感が持てる。ただ、脱色してドキュメンタリータッチのハンディの画で急激なズームを多用した作りなのは、作品と合っていたかどうか。終盤の『七人の侍』状態―、偽札作りを遅らせて踈まれていた人物が称賛されているのを主人公が眺めている姿こそ、そういったタッチが最も効果的に出る場だと思うが、使われてはいなかった。

6月26日(木)

 新宿の喫茶店で膳場さんと打ち合わせをしていたら、いまおかしんじ監督が。その隣で井口昇監督も打ち合わせしてる。帰りがけに見たら、直井さんも。何と言うか、『SPOTTED701』な喫茶店と言うべきか。東京は狭い。

6月27日(金)

 昼過ぎで仕事終了。書店で『ユリイカ 2008年7月号』を購入。 特集は「スピルバーグ 映画の冒険はつづく」。


 某誌編集部で対談というかインタビューというかそんなものをやる。

 松江哲明童貞。をプロファイル』読了。

童貞。をプロファイル

童貞。をプロファイル

 峯田和伸(銀杏BOYZ大槻ケンヂ(ミュージシャン)×武富健治(漫画家)×花くまゆうさく(漫画家)×マッスル坂井(プロレスラー)×カンパニー松尾(監督)×山下敦弘(監督)×デーブ・スペクター(外人)といった顔ぶれと共に松江哲明が夫々の童貞時代の話と童貞突破口を語ってもらう体裁。
 正直言ってしまえば、読む前はあまり興味がなかった。どうも昔からのノベライズ嫌いに起因するのではないかと思うが、原作があって映画にするのは良いとして、まあ、映画の脚本の出版は当然良いけど、ノベライズ化作品は読む気がしないという固定概念があり過ぎて、だからと言ってしまうとあまりにも大雑把な話だが書籍版『あんにょんキムチ』も公開時には読まなかった。それが誤りだと気付いたのは、遅ればせながら読んだときに書いた通りだが、それでもまた今回はできればパスしようと。大体安易ではないか。『童貞。をプロファイル』だなんて。どうせ出版社が当たった映画に欲を出して持ちかけたに違いない。と思っていたら、『スタジオボイス』連載の『東京ドリフター』によれば、当初出版社側からは在日一世に松江がインタビューするという企画が持ち込まれていたのを、松江自身がこんなのはどうかと提案し、結果実現したのが本書だという。
 読み終わってみると、映画と同じく軽薄と思わせておいて、意外とそうではないと感嘆させる作りの本だった。軽やかさと重みが同居している。
 唯一残念だったのは、自分が童貞時代に読みたかったということだ。童貞を馬鹿にしてんのかとちょっと腹立ちながらページをめくっていくと、内容の濃さに引きつけられていたに違いない。殊に注釈が凄い。大体、SPOTTED PRODUCTIONSもそうだが、こっち方面の人がやる注釈はやたらに濃密だというとは分かっていたつもりだが、それにしても濃い。自分はやはり映画の注釈が面白くてたまらなかったが、悶々としていた田舎の中高時代に読んでいれば大喜びしたに違いない。
 夫々距離感の異なるゲストを迎えているので、盟友というべき山下敦弘から、同じ年齢でありながらもリスペクトを隠さない峯田和伸マッスル坂井では、やはり関係性、距離感は違うし、だからこそ面白い。これは映像作品でも伺えることで、童貞1号と2号では監督の持つ距離感が違う。ベタベタな関係だけの人が並んでは面白くない。大槻ケンヂ武富健治、果てはデーブ・スペクターなんていう初対面組が入ってくるのがより距離感を増幅させる。
 やはり自分は同世代である山下敦弘峯田和伸マッスル坂井といった人たちとのやりとりが面白くてたまらなかった。デーブ・スペクターなどはハナシは面白いが殆ど一人喋りになってしまっているのが残念ではあったが。
 第二弾も読んでみたいが、個人的にはそろそろアレを期待している。といってもブログの書籍化ではない。自分が読みたいのは『松江哲明映画評論集』だ。デビューが早く、この世代の監督の中では突出して映画について方々に書いているので、もう1冊にまとまるだけの分量は優にあると思うのだが。青土社で一時期一気に出た黒沢清青山真治高橋洋の本のような体裁でも良いし、或いは溜めに溜めて、『争議あり』のようなものでも良いと思う。


 中野ブロードウェイレコミンツで中古DVD、プレストン・スタージェス結婚五年目』購入。1500円。

結婚五年目 [DVD]

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6月28日(土)

 新宿紀伊國屋で『明治・大正・昭和・平成 実録殺人事件がわかる本』購入。

 新宿TSUTAYAが半額なので『妄想少女オタク系』『スクラップ集団』『やさぐれ刑事』『温泉あんま芸者』『東京ふんどし芸者』をレンタル。
妄想少女オタク系 [DVD]

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スクラップ集団 [DVD]

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やさぐれ刑事 [DVD]

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温泉あんま芸者 [VHS]

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東京ふんどし芸者 [VHS]

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6月30日(月)

 午後イチで祖師ヶ谷大蔵のレモンスタジオへ。某巨匠脚本家の特番。スタジオでハナシを聴く若人として行く。
 他意は無いが『赤軍PFLP世界戦争宣言』のTシャツを着て行く。17時半までかかる。
 加藤正人さんや野上照代さんの姿もあった。
 講座で同期だった人たちと駅前の喫茶店で夜まで雑談して帰る。