『カメレオン』(☆☆★★★)

 新宿バルト9で阪本順治カメレオン』(☆☆★★★)を観る。
 丸山昇一の『松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集』を読んでいたら、あとがきで、『カメレオン座の男』という脚本の冒頭のみ紹介されていた。優作によれば、冒頭のみマルで後は全部バツだったそうだが、冒頭部分は映画化された版もほぼ同じである。
 オリジナル版と今回の版の脚本を読み比べることができていないので、どうアレンジが加わったのかは不明だが、やはり80年代臭が強く、何故この作品が現在映画化されたのかがよく分からない。勿論、黒沢満らによる往年の東映セントラル風味のB級アクションを復活させようという機運は応援したいと思うし、本作以降、こういった作品が量産されまいかという思いもあるとは言え、作品としては低調だった。
 そもそも、藤原竜也にはそのフィルモグラフィーを通じても一貫して違和感しかなく、毎度ながら舞台ではさぞかし映えるだろうという思いを抱く。つまりは映画には至って不向きな役者で、今回のようなハードボイルドになるとよりその思いは強くなり、別に松田優作と同じでなければならぬと言う気は更々ないにしても、藤原竜也の肉体、演技と映画のズレは如何ともしがたい。殊にアップになると不味く、そもそもスター用に書かれたシナリオを、異物感のある藤原竜也の演技で見せられるとより辛い。
 この際、松田龍平でやった方が遥かに良かったのではないか。柄本祐も龍平を食ってやろうとするに違いない。
 結局のところ、谷啓犬塚弘が共演しているというクレージー・キャッツの生き残り出演作という以外の評価はなく、『トカレフ』のような作品なら兎も角、阪本順治の活劇であることを拒否するような演出でこの作品に当たられては、主演者共々作品本来の持ち味とのズレが益々大きくなったように思う。
 カーチェイスが行われるが、車二台でも十分な活劇になりうることは昨年タランティーノが改めて教えてくれたが、阪本順治の低温演出で処理されてしまうので、こんな盛り上がらないカーチェイスは初めて観た。
 廊下で敵と相対したとき、銃を互いに放って転がってから撃ち合ったり、敵が自分の持っている武器を投げ出してから向かい合うといった様式的シークエンスも、低温演出で処理してしまうから、単にワザと自分に不利なことをしているようにしか思えない。何故そのような行為を取るのかと思わせてしまう。丸山昇一の荒唐無稽さに阪本順治が付き合う気がないのではないか。
 ラストもいつ終わるとも分らぬ間伸び具合で閉口した。


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