『映画監督市川崑―崑さんをめぐる映画の旅』
没後以降としては、キネマ旬報社、洋泉社に続いて、今度は近代映画社から市川崑本が発売されたわけが、市川崑だけに当然即購入した。本書は土屋好生氏の単著として書き下ろされたもので、まだパラパラとしか眺めていないが、今のところの印象で言えば、実際に著者が接してきた市川崑の姿を、『市川崑の映画たち』や『KON』を引用しつつ、非常にバランス良くまとめられた本というところで、これ一冊があれば、他の書を参照しなくとも主だったところは理解できるだろう。そういう意味で、市川崑を知る上での入門者としては最適なのではないかと思う。
ただ、せっかく著者はリアルタイムで後期の市川作品を取材する側で観て来たのだから、著者の感じる市川崑論がもっと前面に出ても良かったのにとも思う。確かに森遊机氏の『市川崑の映画たち』というのは、決定版にしてこれがあれば市川崑の本は他にいらないというくらい充実した映画書史に残る偉大な著作で、自分も発売以来、何度も何度も参照するものだから、手垢にまみれて薄汚くなってしまっている。それだけに、本書でも森遊机氏や、『KON』の巻末で対談を務めた和田誠氏の発言を何度も引用するのは分かるが、キャリアからして土屋氏にも自分が観た市川崑を書くだけのものを持っている筈なので、その点が残念に思えた。とはいえ、市川崑の娘にインタビューしているのは貴重。
- 作者: 土屋好生
- 出版社/メーカー: 近代映画社
- 発売日: 2009/03/01
- メディア: 単行本
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