『テレビの青春』

(9)『テレビの青春』今野勉エヌティティ出版

 新宿紀伊國屋で、今野勉の新刊を発見。分厚くて高いが、一発で無茶苦茶面白いに違いないと予想がついたので購入する。
 今野勉のTBS入社からテレビマンユニオン設立間もなくまでを描いたものだけに、正にテレビの黄金時代を活写したものになっている。適当に開いてどこを読んでも面白い。若き日の実相寺昭雄らも出てくるし、内田栄一も出てくるし、TBS闘争も詳しく語られるのだから、面白いのは当然かもしれない。今野勉が突然国映で撮ったピンク映画『裸虫』についても言及があるが、サラリと流すぐらいなのは残念だったが、当初変名で監督したのに芸術祭に出品するので本名を出せと言われるエピソードも興味深い。
 ただ、<当時、ピンク映画というジャンルがあって>と書かれているのはピンク映画も国映も現役だけに何だが。
 また、ピンク映画を撮ったことで、社内でどんな反応が起こったかも知りたいとは思うが、そこまでは書いていない。リアルタイムで経験していないだけに、ピンク映画の当時のニュアンスが未だに掴みきれないところがある。例えば、村井実は若松孝二の『情事の履歴書』をプロデュースしているが、ヒロインに緑魔子をイメージしていたからと交渉して断られ、大映の弓恵子に交渉に行くもまたも断られて、結局若松が銀座の喫茶店でバイトしていた子を見つけてきて起用したわけだが、当時、独立プロとかエロダクションとか言われていたとは言え、こういう作品に一般映画の俳優や、演出家が係ることで世間から何か言われるようなことはなかったのだろうか。例えば、野末陳平が主演した『恐るべき密戯』や、柳家小せんが主演した『好色森の石松』とか、酒巻輝男の『好色座頭市』とか、テレビにも出つつ、ピンク映画にも主演したことで弊害や批判にさらされることはなかったのか知りたい。当時の性状況では、軽いピンク映画でも結構な衝撃かと思うのだが。今なら、ちょっとAVに顔だしたぐらいで五月蠅いものだが、当時はどうだったのだろう。
 話が逸れたが、『テレビの青春』は、小林信彦の『テレビの黄金時代』と共に貴重な当時の証言と言える。ちなみに来月は『ゲバゲバ90分』が遂にDVD化されるし、テレビの黄金時代を遅れてきた世代から見つめるまたとない機会だ。
 そういえば、実相寺昭雄が自身のテレビでの演出作を初期のものから全て所有しているカラクリが書いてあって面白かった。当時はビデオテープは高価だけに重ね撮りをして消してしまっていたが、地方局用にキネコに焼いて発送することがあった。実相寺は、ニセの発注書を作ってキネコに焼き、保存していたそうである。アーカイブ意識がない時代に自分の作品を守ろうとすれば、盗むかこんな手を使うしかなかったわけだ。しかし、それによって歴史的資産となるわけだから、順法なんて糞だ。

テレビの青春

テレビの青春

巨泉×前武 ゲバゲバ90分! 傑作選 DVD-BOX

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