『ユ・ヒョンモク コレクション』(『あなたと永遠に』『キム薬局の娘たち』『最終列車で来た客たち』『長雨』)

 昨年亡くなったユ・ヒョンモク監督と言えば『誤発弾』で知られているが、5年前にフィルムセンターで行われた特集で監督自身も登場されての上映が忘れ難い。昨年のTIFFでの上映にも駆けつけるべくチケットを購入していたのに無駄にしたのは未だ悔いが残っているが、VHSでは持っているのでそちらで再見して監督を追悼した。そんな中で韓国でキム・ギヨンのコレクションDVD-BOXに続いてユ・ヒョンモクのBOXも発売されたので即購入。キム・ギヨン同様リージョンフリーで日本語字幕付きという素晴らしい仕様で、『あなたと永遠に』『キム薬局の娘たち』『最終列車で来た客たち』『長雨』といった50年代から70年代にかけての作品が収録されている。このシリーズ、どんどん日本語字幕付きで出て欲しい。

『パンツの穴 キラキラ星みつけた』

 昨年、秀作『熟女 淫らに乱れて』で12年ぶりの監督作を発表した鎮西尚一監督だが、観た直後にあまりに興奮して直ぐに監督作を数本借りてきて観た。『パンツの穴 キラキラ星みつけた』もそのなかの一本だったが、どうも昔、エロ目的で観たような記憶が微かにあるのだが、はっきりしない。そう思いつつ観た本作には驚愕した。日本のシネ・ミュージカルにこんな傑作があったのかと、もう唖然としながら観ていた。女の子たちは歌い踊り、デビュー間もない浅野忠信も踊る。何で『パンツの穴』枠でこんなことができたのかも分からない。鈴木則文が1作目でUFOと武田鉄矢を登場させた頃からタガが外れたシリーズではあったのだろうが、日本映画がここまで到達していたことに感動すら覚えた。
 というわけで、レンタル版をダビングしているだけでは我慢出来ず、中古ビデオを500円で見つけたので購入。

パンツの穴 キラキラ星みつけた! [VHS]

パンツの穴 キラキラ星みつけた! [VHS]

『東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了作品集 2008』

DVD 東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了制作作品集2008 (<DVD>)

DVD 東京藝術大学大学院映像研究科第二期生修了制作作品集2008 ()

 先日、横浜のシネマジャック&ベティで行われた「未来の巨匠たち」の初日に瀬田なつき監督の特集が組まれ、『彼方からの手紙』『とどまるか なくなるか』『港の話』『むすめごころ』『あとのまつり』が上映された。このうち、『むすめごころ』『あとのまつり』は既に観ており、殊に後者には完全に参ってしまい昨年のベストテンにも入れた。今回横浜まで出向いたのも『あとのまつり』を再見したいという思いからだったが、未見の『彼方からの手紙』『とどまるか なくなるか』『港の話』がどんなものか、特に『彼方からの手紙』が一部で随分高く評価されているようだが、実際はどんなものか。まあ、はっきり言って過剰に持ち上げすぎではないのかという思いもあったのだ。
 その結果は、結局上野の東京芸大まで『彼方からの手紙』が収録されたDVDを買いに行くハメになった。Amazonでも取り扱っているらしいが一時的に品切れになっていたので、待っていられなくなったのである。それほどこの作品には魅了され、これまで観ていなかったことを恥じた。
 瀬田作品をまとめて観ると、繰り返し同じモチーフを取り上げ磨きあげていくことで習熟していくことが見て取れる。『彼方からの手紙』は現段階でのひとつの到達であり、その流れを汲んだのが『あとのまつり』だったことがわかった。だから『あとのまつり』に惚れ込んでいるなら、『彼方からの手紙』にも当然、あるいはそれ以上魅了されてしまうわけで、即座に手元にDVDで置いておきたい欲求に駆られるのだ。
 ちなみに収録作品は

収録作品
Disc 1
『彼方からの手紙』(瀬田なつき監督) 『錨をなげろ』(船曳真珠監督) 『アンナの物語』(山田咲監督)
Disc 2
『PASSION』(濱口竜介監督/第56回サンセバスチャン国際映画祭・第9回東京フィルメックス正式出品)
『緑川の底』(吉井和之監督) 『second coming』(吉田雄一郎監督)

 となっており、『PASSION』も既に観ているが、こちらも異世界が日常に流入してくる仄かな気配を感じさせてくれる秀作だった。しかし、2枚組でこれだけ収録されて2940円は安い。

『これで、いーのかしら。(井の頭) 怒る西行』パンフレット


 現在、ポレポレ東中野で上映中の沖島勲監督の新作『これで、いーのかしら。(井の頭) 怒る西行』のパンフレットに「これが、エーガなのかしら。 幻映の東京散歩」という作品評を書かせていただきました。これは試写で観た際にブログへ書いた感想に加筆修正を加えたものです。沖島監督がその後、俳優として鎮西尚一監督の新作『熟女 淫らに乱れて』に出演されたので、そのあたりも加えました。
 ちなみに、この作品を観に行った日は沖島監督と松江哲明監督のトークがあり、話題は当然同じ年に同じく一発撮りで北と南から井の頭公園目指して歩く映画を撮った偶然性への驚きから始まりましたが、偶然と言えば、自分がこの作品の試写状を受け取ったのは、ちょうど同じくポレポレ東中野で松江監督の特集上映の最中で、ポレポレに着いてみると1階のテラスに松江監督と前野健太さんが居たので、既に『ライブテープ』を観ていただけに、思わず二人に「これ『ライブテープ』に似てるんじゃないですか?」と試写状を見せたところ、松江監督は「何これ?」と驚き、前野さんは面白がって観たがっていた記憶があります。
 実際に作品を観ると、これはもうぜひ『ライブテープ』と連続上映して、監督二人のトークが聞いてみたいと思ったものの、この時点では二作とも公開のメドが立っておらず、大体興行がそう都合よく組まれるはずもないので無理だろうと思っていたら、半年後には別々の劇場(と言っても東中野と吉祥寺)で同時期に上映され、監督二人のトークも実現したのだから、どうもこの作品にはそういう偶然性がつきまとっているような気がします。それこそ、何故かパンフレットに書かせていただけたのも、自分が以前から松江監督と沖島監督のファンだったから、試写で見せてもらってそのリンクぶりを最初にブログに書いていたというだけの偶然にすぎないわけですが、そういったことも含めて、不思議な気分で沖島監督と松江監督のトークを聞き入っていました。   


 自分のことはさておいて、このパンフレットが大変充実しているので、ぜひ手にとっていただければと思います。本作の撮影地点を記したルートマップ、シナリオ採録、『一万年、後…。』のプロデューサーでもある山川宗則さんの評、稲川方人さんの評、最後に沖島監督のロングインタビューという構成になっています。パンフレットには作品題よりも大きく「沖島勲怒涛の語り」と記されているのが何とも凄い。
 個人的にドキュメンタリー作品のシナリオ採録というのが非常に好きで、劇映画のシナリオ掲載は別にして、ドキュメンタリーの完成作品からのシナリオ採録というのはビデオ時代以前の慣習だろうとは思いますが、ここでは、劇中では心地よく良い意味で聴き流すことができる沖島監督の語りを文字で読み直すことで、作品の見え方が違ってくるのではないかと思います。また千浦僚さんによるロングインタビューでは、『一万年、後…。』の後に準備していたという劇映画企画『モノローグ―戦後小学生日記―』についても既にシナリオを読んでいた千浦さんが聞いているので、非常に奥行きのあるインタビューになっていて面白かったです。

『にこたま(1)』『おやすみプンプン(6)』

にこたま(1) (モーニング KC)

にこたま(1) (モーニング KC)

おやすみプンプン 6 (ヤングサンデーコミックス)

おやすみプンプン 6 (ヤングサンデーコミックス)

『映画秘宝 2010年3月号』

映画秘宝 2010年 03月号 [雑誌]

映画秘宝 2010年 03月号 [雑誌]

 本日発売の『映画秘宝 2010年3月号』で、山田洋次監督の新作『おとうと』の作品紹介と、特集「若尾文子の世界」で「若尾文子vs市川崑」というコラム、それから前号のゼロ年代ベストテンに続いて、初参加させていただいた「ベスト&トホホ10」を書いています。ここでは、ベスト10本とトホホ3本以外に、ゼロ年代を象徴する映画、ベスト男優、ベスト女優、ベストシーン、死んで欲しい奴を挙げています。

『SWITCH vol.28 No.2(スイッチ2010年2月号)特集:闘う、大島渚』

 かつて、雑誌というのはもっと面白いものだったと思う。おっ、と思わせる特集が前月号の巻末に告知されて、心待ちにして一月過ごすというような。もっとも90年代に入ってから意識して雑誌を買う年齢になったので、それ以前の世代の人からは、この程度で良いと言っていてはと言われてしまう。何せ『宝島』と言えば『別冊宝島』か『宝島30』しか知らないという世代なので。
 節操が無いと言うか、『スタジオ・ボイス』も買えば『CUT』も『SWITCH』も特集によれば買っていたので、今でも立ち読みはするのだが、とんと買わなくなってしまった。『SWITCH』を最後に買ったのは「特集・パーソナル・ビジュアル・アーカイブ」という6年ほど前の映像個人所蔵をめぐるものだったかと思うが、その後は食指が動かなかった。というのも驚きがなくなったからだ。今、これをメインの特集で組むか?と思うような大胆さや、よくこんなマニアックな特集を、と感嘆させてくれたりすることが少なくなってしまった。
 それだけに、『SWITCH』の前号巻末で次号特集「闘う、大島渚」と書いてあるのを見つけた時は、久々に期待した。いくら紀伊國屋からDVD-BOXのリリースが始まり、昨年のPFFでも特別上映され、著作集が編まれるなど再評価の機運が高まっていると言っても、研究本(今年は四方田犬彦の『大島渚と日本人』が単行本化される)や『ユリイカ』あたりで特集は組めても、一般の雑誌では今はもう難しいだろうと思っていたからだ。
 一読しての感想は、大島渚入門書としては良いのではないだろうか。インタビューなどはこれまでにも語られてきたエピソードが多いだけに新たな発見は少なかったが、昨年のぴあフィルムフェスティバルで行われた大島渚講座を収録したことは評価されるべきだろう。殊に黒沢清による『日本春歌考』と『絞死刑』を中心にした講義は、これまで画一的に観られていた作品に新たな視点を与え、若い観客層に大島を再発見させる契機になったと思うだけに、活字化を願っていた者としては嬉しい。実際、現在フィルムセンターで行われている特集「映画監督 大島渚」には若い観客層がこれまでに比べれば多く目にするし、個人的にも偏愛しているものの、顧みられる機会の少ない『日本春歌考』へ注目が集まったことは良かった。
 それから冨永昌敬監督による全作解説も良い。内容の充実だけを言うなら、佐藤忠男松田政男を筆頭とする先人の評論家が書いたものの方が良い。しかし、ここで重要なのは、冨永昌敬がリアルタイムで観ることができた新作は『御法度』であるという事実だ。70年代中盤以降に生まれた者の大半は、生まれていたとは言え、『戦場のメリークリスマス』も『マックス、モン・アムール』も公開時に劇場で観ていない。ようやく間に合った新作が『御法度』なのだ。そういった世代が大島を語り始めたことで、大島は再び先頭を切って走る映画作家となる。冨永監督の「リアルタイムで見た唯一の大島映画である『御法度』が、氏のフィルモグラフィのなかで一番好きだ。」と記すところに完全に同意する。
 それにしても、この表紙は衝撃的だ。しかし、良い顔をしている。大島には今も昔も二つの表情しか無い。ムッとしたように食いしばったような口をしているか、大笑しているか。大島はもうほとんど喋ってくれることはないが、大島が同時代に生きていて存在しているということが嬉しい。そしてこういった表紙を飾ってくれることが嬉しい。しかも本誌の後半には偶然というか、『おとうと』公開記念に山田洋次笑福亭鶴瓶の対談も掲載されている。松竹大船同期の二人が同じ誌面に対照的に登場するのを眺めるのは、何とも不思議な気分になった。

SWITCH vol.28 No.2(スイッチ2010年2月号)特集:闘う、大島渚

SWITCH vol.28 No.2(スイッチ2010年2月号)特集:闘う、大島渚

特集 闘う、大島渚


独占撮り下ろしフォトストーリー 写真=ホンマタカシ
エッセイ 今私たちがオーシマ映画を求めるのはなぜか


特別企画 北野武、10問10答 「大島渚、あなたもか!」

インタビュー「それぞれの大島」
坂本龍一崔洋一松田龍平田口トモロヲ成田裕介阪本順治塚本晋也

大島渚講座 「ぴあフィルムフェスティバル黒沢清若松孝二是枝裕和


特別収録 対談 黒澤明×大島渚 「日本映画には動的訓練が必要である」


大島渚 全作品解説 冨永昌敬監督
大島渚 PHOTO&WORDS

■個人的に偏愛する大島映画の一景

大島渚初監督短篇『明日の太陽』