『俺は、君のためにこそ死ににいく』『花形選手』『按摩と女』『ラザロ/蒼ざめたる馬』『ラザロ/複製の廃墟』『ラザロ/朝日のあたる家』『百年の絶唱』

molmot2007-07-21

195)『俺は、君のためにこそ死ににいく』(シネマート六本木) 不完全鑑賞につき評点なし

2007年 日本 「俺は、君のためにこそ死ににいく」製作委員 カラー ビスタ 140分
監督/新城卓    脚本/石原慎太郎    出演/岸惠子 徳重聡 窪塚洋介 筒井道隆 多部未華子


 『たそがれ清兵衛』以来となる岸惠子の映画出演だが、本格的主演としては、『かあちゃん』以来となる。『天河伝説殺人事件』でようやく初めて劇場で岸惠子出演作をリアルタイムで経験した世代としては、以降の数えるばかりの映画出演作全てを観て来たものの、2007年に岸惠子主演作がメジャー公開されるのは喜ばしい。
 本作には周辺状況で五月蝿い声がしていたので、正確な評価を読みたいと思って雑誌、ネットでも少しは探してみたものの、『Always 三丁目の夕日』の感想が自身の思い出話に終始している並に、自身の思想信条を語っているものが多く、本当に映画として良いのか悪いのか判然としなかった。大体信用できないのが、石原慎太郎の映画なんかロクなものじゃないとか、観ないというような物言いで、『俺は、君のためにこそ死ににいく』は、という主語がつくならまだしも、石原慎太郎の、となってしまうと納得しかねる。『処刑の部屋』も『狂った果実』も『錆びたナイフ』も『乾いた花』も『小さな冒険旅行』もロクなものじゃないと宣言しているワケで、自分はそんなマネはできないし、石原の監督作品『若い獣』はまだ観る機会があるが、現在は観れない『二十歳の恋』など、ずっと観たいと思っている。
 『俺は、君のためにこそ死ににいく』に関しては、入場した時は既に本編が始まっており、トロピカルジュースが画面の中心にドンと置かれているシーンが始まっていたので、冒頭を見逃した為不完全鑑賞になるので、作品について賛否を口にするのは作者に失礼なので控える。
 それよりも、自分より後に入ってきたオトコが、入口付近でやたらと舌打ちして口中でブツブツ呟きながら十数分立ち竦んでいたことが印象的だった。やがて、動きだしたオトコはスクリーンの光を頼りに席を探していたが、いくら指定席制を取っている劇場とは言え、場内はガラガラなのだし、これ以降新に入ってくる観客などまず居そうにないのだから、適当に座れば良いではないか。それが、どうもちゃんとしたいオトコらしく、決められた席に座りたいらしいのだが、席が奥にあるので何人かの観客の前を横切って自分の席に行かなければならないらしい。それなら、座っている観客に一声かけて素早く行けば良いのだが、どうも声をかけられないらしい。そこでオトコはどうしたか。一番前の列まで行って、柵をよじ登って最前列の席に転がり込むと、更に椅子の上をまたぎながらドンドン後ろの席へと移って行って、ようやく決められた席に着席した。その間も終始ブツブツ呟きながら。それが面白かった。以上。
 それだけではあんまりなので、無理矢理幾つか付け加えておけば、撮影が黒澤組の上田正治なので、それならば安心だと思ったのだが、撮影自体は悪いものではないにしても、演出がそれを活かしきれていたかどうか。戦闘機が飛び立つシーンでの各機の引きと寄りを慌しいOLで繋いだのを繰り返す著しく映画的なリズムに欠ける編集だとか、石原慎太郎も指摘していた通り、離陸を見送るシーンや、一団への指揮命令を発するシーンは、もっとロングを入れるべきで、やたらと狭苦しい。セット撮影も活かされていないし、如何に『男たちの大和』の佐藤純彌が撮影所出身者ならではの手馴れた職人技術を見せていたかを痛感した。
 やたらと血糊が出てくる映画だとか、脚本も演出もその場その場で終息形に持っていくので140分の断片を見せられているだけだったとか、『男たちの大和』で得たスキルを更に上げた特撮研究所の特撮が健闘していたと思ったぐらいだが、全篇を完全に観れたワケではないので、作品への最終的な判断はできない。



清水宏大復活!
196)『花形選手』(シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★★

1937年 日本 松竹大船 モノクロ スタンダード 分
監督/清水宏    脚本/鯨屋当兵衛 荒田正男     出演/佐野周二 日守新一 近衛敏明 笠智衆 大山健

197)『按摩と女』(シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆☆

1938年 日本 松竹 モノクロ スタンダード 分
監督/清水宏    脚本/清水宏    出演/高峰三枝子 徳大寺伸 日守新一 爆弾小僧 佐分利信  


『ラザロ』公開記念オールナイト
ラザロ

 場内満席立ち見も出る盛況で、やたらと客層が若いのが印象的で、質問に立つ声を聞くと多摩美の1年とか19とか多かった。確かに、自分が一緒に観てたコが5つ下で、その他劇場で会った知り合いも7つ下とか10近く下のコとかばかりになるのだから、オッサンが紛れ込んだ感をひしひしと感じ、大体『ラザロ』は再見だし、『百年の絶唱』は三回目だし、そこまでしてオールナイトに来る必要があったのかと自分でも思うが、『ラザロ』は初見時にやたらと引っかかった映画なので、再見しないわけにはいかず、でもお陰で、ようやくはっきりと作品の面白さがつかめた。その結果、いちばん不出来だと思っていた『複製の廃墟』が異様に面白く思えてきて、評価が変わった。初見時は演技や設定の不自然さに疑問を感じたのだが、再見すると表面的な箇所への疑問は後退し、作品固有の力強さが漲っていた。

198)『蒼ざめたる馬』 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★★

2004年 日本 京都国際学生映画祭2003/スピリチュアル・ムービーズ カラー ビスタ 40分
監督/井土紀州    脚本/板倉一成 井土紀州    出演/弓井茉那 成田里奈 東美伽 大沼幸司

199)『複製の廃墟』 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★★

2006年 日本 スピリチュアル・ムービーズ カラー ビスタ 84分
監督/井土紀州    脚本/森田草太 遠藤晶 井土紀州    出演/東美伽 伊藤清美 池渕智彦 小野沢稔彦 進藤都夫

200)『朝日のあたる家』 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★★

2006年 日本 伊勢映画人会/スピリチュアル・ムービーズ カラー ビスタ 81分
監督/井土紀州    脚本/西村武訓 吉岡文平 井土紀州    出演/東美伽 堀田佳世子 小田篤

自主映画サミット
201)『百年の絶唱』 (ポレポレ東中野) ☆☆☆★

1998年 日本 カラー スタンダード 87分 
監督/井土紀州  脚本/井土紀州  出演/平山寛 葉月螢 佐野和宏 坪田鉄矢 加藤美幸