『「悪霊島」オリジナル・サウンド・トラック』

『「悪霊島」オリジナル・サウンド・トラック』 湯浅譲二


 ビートルズのリマスター盤発売に便乗したのか唐突な印象で『「悪霊島」オリジナル・サウンド・トラック』のCD化が果たされたので、いそいそと購入。何せ新宿タワーレコードではDVD・サントラの階では『悪霊島』のサントラが店内で流れているのだから気分も高揚するというものだ(購入したのではディスクユニオンだが)。
 公開時に発売された同名LPを未入手のまま今に至っていた者としてはひたすら嬉しい。オリジナルLPをライナーも含めて(新解説も付いているが)そのまま復刻しているのも嬉しく、久々に台詞入りサントラを聴き入った。
 金田一シリーズのサントラCDは、93年頃だったか市川崑のシリーズがまとめて発売され、以降は96年の『八つ墓村』公開に合わせて『金田一耕助の冒険』なども次々と発売されたりと、これらの作品を最も繰り返し観ていた中高生の時期にCD化が果たされたので思い入れがある。中でも気に入っていたサントラは『犬神家の一族』(大野雄二)、『八つ墓村』(芥川也寸志)、『病院坂の首縊りの家』(田辺信一)で、目覚まし時計代わりに『八つ墓村』に収録されている「惨劇・32人殺し」という村人32人を殺すシーンで流れる曲で起きて何とかテンションを上げて学校に行っていた。
 たまに見かける日本映画のサントラベスト的な企画では、かろうじて『犬神家の一族』が入るくらいで、『砂の器』の同工異曲過ぎるせいもあるのだろうが『八つ墓村』は当然無視されているし、『病院坂の首縊りの家』も桜田淳子の「イッツ・オンリー・ア・ペーパームーン」が素晴らしいのに軽く見られがちで、近年、小西康陽が紹介したり、前号の『映画秘宝』のサントラ特集でも取り上げられたりと、ようやく再評価が高まっている印象だ。

 篠田正浩による『悪霊島』は、篠田作品に秀作なしの法則通り、かなり凡作なので、岩下志麻の本気オナニーシーン(撮影現場で夫の篠田が志麻に「家でやってるみたいにオナニーしてみろ!」と強要することで実現した〈=あくまで想像〉本気オナニーを宮川一夫が撮影するという無駄な豪華さ)の付加価値の高さが熟女マニアに受けているから語り継がれている(本ブログへの検索キーワードの上位は常に“岩下志麻+オナニー”だ)に違いないと半ば本気で思っているが、それ以外にはやはりビートルズの楽曲使用が大きいようで、そうでなければビートルズの権利問題でDVD化が不可能と思われたこんな大したことが無い作品を、わざわざ曲を差し換えて(台詞、効果音、ナレーションにも被って使用しているのでミックス作業をやり直して)までDVD化しないだろう。
 よく知られている通り、『ゲット・バック』と『レット・イット・ビー』(共にシングルバージョン)を劇中で使用しているが、冒頭でジョン・レノンの死の報道を目にした古尾谷雅人が茫然と立ち尽くすショットにインストゥルメンタルの『レット・イット・ビー』が高らかに鳴り響く導入部は、このインストゥルメンタルのアレンジの良さもあって印象深いのだが、ただ『レット・イット・ビー』はレノン=マッカートニー名義とは言えポールの作品なので、ジョンの死の報にこの曲が流れるチグハグ感は、藤子・F・不二雄が死んだと言っているのに『忍者ハットリくん』を映すようなもので、違和感はどうしても拭えない。
 今回初めてサントラを聴くと冒頭の古尾谷のモノローグは『レット・イット・ビー』ではなく、オリジナルシナリオ通り『ゲット・バック』が流れてそこにモノローグが被るようになっていて台詞入りで聴けるので貴重。当然『ゲット・バック』はインストゥルメンタルだが。ただこの曲もやはりポールの曲なので、ジョンが死んで流す曲ではないと思うが。アップル本社の屋上でポールがゲバーゲバーと連呼していた曲なんだし。



 ちなみに上の『悪霊島』予告編は今回YOU TUBEで初めて観た(LD版に収録されていた?)。ビデオ版には予告編は確か収録されていなかった筈で、『レット・イット・ビー』を思い切り流しているから二度と見られないと言われていて、その後DVDにも当然収録される筈はなく特報を収録しただけだった。ビデオ時代に発売された『角川映画15年の歩み』には角川映画のTVスポットが収録されているが、『悪霊島』のスポットも収録されていて『レット・イット・ビー』が流れていたが、これも現在では収録できないだろう。また、一昨年『コミックチャージ』の創刊号に「創刊特別DVD付録・角川映画30周年記念93作品スペシャルムービー180分」という角川映画の予告編を集めたDVDが付いてきたが、ここでも『悪霊島』は特報が収録されただけだった。それだけに、『悪霊島』の予告編をようやく観ることができて嬉しいが、噂どおり全編『レット・イット・ビー』がバックに流れる豪華過ぎる予告だ。それにしても、角川映画の予告編の喚起力は素晴らしい。これだけ観れば無茶苦茶面白そうに見えてしまう。実際は面白くないのだが。ただ、宮川一夫の撮影が素晴らしく夏の島のニオイが伝わってくるようで、この点に関しては市川崑の『獄門島』より『悪霊島』の方が魅力的だ。

1. 悪霊島のテーマ 
2. (インストゥルメンタルゲットバック(発端への回帰) 
3. 鵺の鳴く夜は気をつけろ 
4. 愛の旋律巴御寮人 
5. 悪夢のプロローグ 
6. 鴉が見ていた 
7. (インストゥルメンタルゲットバック(五郎の告白) 
8. 宵宮の殺人 
9. 吉太郎変化 
10. 追え! 
11. 崩壊 
12. 神を見たか 
13. ふぶき再び 
14. 解明 
15. 紅蓮洞の悲劇 
16. 消滅 
17. (インストゥルメンタル)レットイットビー(旅の終わりに)

悪霊島

悪霊島