映画 「透光の樹」

5)「透光の樹」 (シネカノン有楽町) ☆☆☆★


2004年 日本 カラー ビスタ 「透光の樹」製作委員会 121分 
監督/根岸吉太郎   脚本/田中陽造   出演/秋吉久美子 永島敏行 高橋昌也 吉行和子 平田満

 
 既報にあるように、当初萩原健一秋吉久美子で撮影されていながら、ショーケンの降板で永島敏行が代役となった。
 ショーケンだろうが、永島敏行だろうが、この主演者で、監督が根岸吉太郎と来れば、随分と70年代、或いは80年代前半色が強く感じ、この世代が濃密な作品を作ってくれるなら、ケッコーなことだと思っていた。脚本は、この布陣なら当然荒井晴彦だと思っていたが、師匠の田中陽造だと知り、期待はより高まった。何せ田中陽造脚本に外れなしなので、期待せずにはいられない。
 今回、田中陽造が脚本に起用されたのはショーケンの希望なのではないかと想像している。「居酒屋ゆうれい」「天国までの百マイル」(当初主演はショーケン岸恵子だった)とショーケン作品の脚本を連続して担当しているし、ショーケン田中陽造を信頼しており、「天国までの百マイル」の脚本を田中陽造に指名したのもショーケンだ。
 撮影の川上皓市を始め、照明の熊谷秀夫、 編集鈴木晄、 整音橋本泰夫、スクリプターの白鳥あかね等ベテラン勢が参加していることもあり、非常に丁寧に作られた作品で、やはりこういう作品がないと映画のバランスが悪くなる。
  田中陽造の脚本自体は未だ読んでいないのでわからないが、作品から見受ける限り相変わらずの語り口の巧さと普遍性を持っており、田中陽造脚本が相次いでポシャっている現状がわからない。
 しかし、唯一にして最大の問題が根岸吉太郎の演出にある。確かに巧い。的確な人物配置、切返し、ロングと寄り、どこかの「海猫」みたくSEXシーンをOLかけまくるような無様なことをすることもなく真正面から撮り上げ、堂々と見せ、中年の性愛シーンを醜悪にすることなく描き上げており感心した。しかし古いのだ、感覚が。「絆」を観た時にも思ったが、演出は巧いが時代感覚がズレている。これは何も派手な映像にしろとか、ドリーを使えなどと言っているのではない。良し悪しは兎も角、森田芳光は非常に良く現在の映画を観ているし、吸収していると思われる。しかし、根岸吉太郎は昔からの自分のスタイルのみを過信しているのではないか。「絆」にしても本作にしても、暗い、重い、ダサイ、という昔ながらの日本映画のイメージを堂々と掲げており、良くできてはいるし、方法論は間違ってはいないのだがここまで現代性が欠如しているのは、単に現代が嫌いで80年代が好きなだけに思えてしまう。このままでは根岸吉太郎は5年に1度、70、80年代を舞台にした作品か時代劇を撮るしかできなくなってしまうのではないか。
 川上皓市の撮影はいつも暗めで、「スリ」や「身も心も」では良いと思えたが、本作では肝心の木漏れ日が「羅生門」にも成瀬巳喜男の「歌行燈」にも遥かに及ばないのは辛い。
 科白や設定、マイウェイを歌うシーンや、永島敏行が自社のスタッフに自身が退くことを発表した際のスタッフのリアクションなど、とんでもない描写が幾つかあり、このスタッフと根岸吉太郎の基本的な演出能力で何とか持っているが、疑問であることに変わりはない。
 ネタバレになるが、ラストの現代のシークエンスで、秋吉が老婆メイクになっているのは作りこみが目に付きすぎる。老成をこんな形でしか見せられないのは、いかにも古めかしい日本映画と言われても仕方ない。