幻の若松版・小平義雄を体感せよ!!  シネマヴェーラ渋谷 若松孝二大レトロスペクティブ 2008/03/15 〜 2008/04/04

 第58回ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)と国際芸術映画評論連盟賞(CICAE)をW受賞したことで、一気に話題が広がっている『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』公開を記念して、公開日と同日に若松孝二のレトロスペクティブがシネマヴェーラ渋谷で開催される。“大レトロスペクティブ”と題されるそのラインナップの発表が期待されたが、下記の如き作品群の上映となった。


『壁の中の秘事』
『裏切りの季節』
『処女ゲバゲバ』
『新宿マッド』
『秘花』
『日本暴行暗黒史 怨獣』
『狂走情死考』
『鉛の墓標』
『胎児が密猟する時』
『ゆけゆけ二度目の処女』
『性輪廻/死にたい女』
赤軍-PFLP-世界戦争宣言』
『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』
『天使の恍惚』
『性の放浪』
『噴出祈願 15歳の売春婦』
『犯された白衣』
『裸の銃弾』
『性賊 SEX JACK』
『性家族』
『現代好色伝/テロルの季節』


 正直なところ、レア作上映を期待する向きとしては、3年前のポレポレ東中野での特集上映の方が遙かにレア作が大量に上映されたので、それに比べると、物足りないという思いもあるが、『実録・連合赤軍』公開を機に、大量に新たな観客の流入が期待できるので、若松作品をここから観ていくには申し分ない並びだと思う。何せ安価で2本立て(日祝日は3本立て!)で観ることが出来るわけだから。


 それでも、この機会を逃してはならないレア作も混じっている。『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』『日本暴行暗黒史 怨獣』の2本がそうで、長年観たかった作品だけに遂に観ることができるという喜びにひたっている。
 『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』は、『日本暴行暗黒史 異常者の血』に続くシリーズ第二弾で、小平義雄の連続女性殺人事件を描いている。小平を演じるのは、60年代後半にピンク映画監督として活躍し、『新・情事の履歴書』などの監督作で知られる山下治。脚本も山下が書いている(クレジットは出口出)。ちなみに山下治は60年代後半に蒸発しており、山谷に潜り込んだという噂を残しつつ消息不明のままだという(『新・情事の履歴書』はビデオ化されているので観ることが可能)。
 小平事件を描いているだけに大量の女性が必要になるわけで、当時の若松作品は同じスタッフ、キャストで2本連続撮影を行うという手法を取っていたので、この大量の女性キャストを活かして引き続いて撮影されたのが『犯された白衣』だ。
 本当は、天皇制をテーマに据えた傑作『日本暴行暗黒史 異常者の血』や、津山三十人殺しを主題にした『日本暴行暗黒史 復讐鬼』と共に上映すれば、日本暴行暗黒史シリーズの全貌がより明瞭に見えてくるのではないかと思うが、興味のある方は、新宿TSUTAYA、渋谷TSUTAYA、高円寺オービス等を回ってビデオを探してもらうしかない。
 『日本暴行暗黒史 怨獣』は時機的に少し外れているが、足立正生脚本による全く未知の作品だけに期待したい。


 未ソフト化作品としては、上記二本以外に、『性輪廻/死にたい女』『赤軍-PFLP-世界戦争宣言』『性の放浪』がある。
 『性輪廻/死にたい女』は、紀伊國屋から発売されている「若松孝二初期傑作選」に当初収録される筈だったが、ネガの状態が悪く見送られた作品だけに、劇場で観れる機会がある内に観ておくべき作品で、盾の会をモデルにして、決起に参加し損ねた男を主人公に、若松映画を象徴する雪の中で展開する。若松と足立が旅館に次回作シナリオ執筆の為に籠っていたところ、三島事件が発生した(1970年11月25日)為に、この題材でやろうと即断し、12月には上映していたというピンク映画の即時性と速度が伺えるエピソードがある。

 『赤軍-PFLP-世界戦争宣言』は、昨年大阪の第七藝術劇場では確かニュープリント上映された筈なので、ニュープリント上映であれば是非再見を重ねたい。

 『性の放浪』は昨年ようやく観ることができたが、沖島勲脚本による思わぬ秀作だったので、この機会に是非観ていただきたい。今村昌平の『人間蒸発』への若松×沖島からの果敢なるアンサー映画になっている。自分の感想は→コチラ


 では、それ以外はソフト化されているからハナからパスしていいかと言えば、若松映画の特殊性のせいかどうか、熱心なファン以外には観る機会がなかなかない作品も多く含まれている。
 例えば『裸の銃弾』がそうだ。前述の「若松孝二初期傑作選」に収録された近年プリントが発見された作品だが、これを観るには、レンタル許諾が下りていないので、あの質も高いが値段もベラボウに高い紀伊國屋DVDのBOXか単品かを買わねば観ることができない。この作品は大和屋竺のシナリオによる殺し屋映画の傑作だが、だからと言って、未見のまま、いきなりこの作品を購入する人がそう多く居るとは思えない。今回の上映によって初めて目にする人が多い筈で、これも何としても観てほしい。『愛欲の罠』共々、本作のネガが発見されたのは映画史に残る歴史的発見(と言いつつ、若松の別荘から出てきたらしいが。『狂った一頁』も衣笠の自宅の天井裏から出てきたらしいから、案外近いところに幻の映画は埋まっているのかもしれない)であり、まだ見ぬ大和屋の殺し屋映画の秀作に触れる幸福を感じることができると思う。
 本作に関しては、先日出版された平岡正明の『若松プロ、夜の三銃士』に書き下ろしで素晴らしい『裸の銃弾』評が掲載されているので、映画と合わせて読んでいただきたい。

若松プロ、夜の三銃士

若松プロ、夜の三銃士


 若松作品には、ビデオ化はされているものの、大手のレンタル店では滅多にお目にかからない作品というものもある。ビデオ黎明期に一度ソフト化されたきりの作品が多いからで、今回のラインナップの中で言えば、『裏切りの季節』『秘花』『鉛の墓標』『噴出祈願 15歳の売春婦』『性家族』がそれに当たる。又、『新宿マッド』も同じく一度ビデオ化されたのみで、紀伊國屋DVDでも観ることが可能だが、繰り返しになるが、値段が高いし、レンタルもやっていない。

 『裏切りの季節』は大和屋の監督作、『噴出祈願 15歳の売春婦』は足立の監督作だが、ハミングバードのビデオが出たのみなので、在庫のある店舗は一部に限られている。
 まだ上映の機会は多いとは言え、『裏切りの季節』は傑作なので必見である。
 『噴出祈願 15歳の売春婦』はオリジナルがシネスコサイズだが、ビデオはトリミングされている為、劇場で観なければ本来の魅力を感じることはできない。これは『鉛の墓標』も同じく大胆にトリミングされているので、劇場で観てこそ、という作品である。
 『秘花』は、足立と荒井晴彦の共同脚本作。海岸に打ち上げられた廃船を舞台にした吉沢健と横山リエが織りなす学生運動からの敗残者を描いている作品だが、『狂走情死考』のフッテージをかなり使用しているので、続編と考えると途端に面白く感じる。尚、貞操帯がバーンと画面にアップになるシーンは、なかなか現在ではお目にかかれない映像になっているので是非見てもらいたい。
 『性家族』は、大島渚に対抗して作られた若松版・『儀式』。渡辺文樹の『ザザンボ』を観たときに、『犬神の悪霊』と共に連想したのが本作だ。
 この辺りの作品は、他の有名作に比べれば秀作とは言い難いが、なかなか上映される機会がないだけに、観ておいた方が良い。


 結論的には全部観ろ、という誠にミもフタもない物言いになってしまうが、もう一度まとめておけば、若松映画を近年の特集や上映などをこまめに観ていて見尽くしたという人は、『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』『日本暴行暗黒史 怨獣』だけチェックしてもらって、DVDやビデオで出ている作品はパスするのであれば、上記二本に加えて『性輪廻/死にたい女』『赤軍-PFLP-世界戦争宣言』『性の放浪』を見逃すなかれ。
 この中で紀伊国屋からDVD化されているのは『壁の中の秘事』『処女ゲバゲバ』『新宿マッド』『狂走情死考』『胎児が密猟する時』『ゆけゆけ二度目の処女』『天使の恍惚』『犯された白衣』『裸の銃弾』『性賊 SEX JACK』『現代好色伝/テロルの季節』だが、セルオンリーなので、レンタル店では借りられない。
 ビデオ化されているのは、『壁の中の秘事』『裏切りの季節』『処女ゲバゲバ』『新宿マッド』『秘花』『狂走情死考』『鉛の墓標』『胎児が密猟する時』『ゆけゆけ二度目の処女』『天使の恍惚』『噴出祈願 15歳の売春婦』『犯された白衣』『性賊 SEX JACK』『性家族』『現代好色伝/テロルの季節』だが、『裏切りの季節』『新宿マッド』『秘花』』『鉛の墓標』『噴出祈願 15歳の売春婦』『性家族』は、一部の店舗にしか置いていない。それ以外はイメージフォーラムから出たビデオがレンタルしているので、大き目の店に行けば置いてある。
 尚、ビデオで、オリジナルのシネスコサイズの作品がトリミングされているのは『鉛の墓標』『噴出祈願 15歳の売春婦』。

 作品としてのオススメは、『実録・連合赤軍』に関連する作品を優先して観るのなら『新宿マッド』『秘花』『狂走情死考』『赤軍-PFLP-世界戦争宣言』『天使の恍惚』『性賊 SEX JACK』『現代好色伝/テロルの季節』を。
 個人的に好きな作品を10本挙げれば、『裏切りの季節』『処女ゲバゲバ』『新宿マッド』『狂走情死考』『胎児が密猟する時』『性の放浪』『噴出祈願 15歳の売春婦』『裸の銃弾』『性賊 SEX JACK』『現代好色伝/テロルの季節』だ。

若松孝二・大レトロスペクティブ》


3/15(土)「壁の中の秘事」「裏切りの季節」
3/16(日)「処女ゲバゲバ」「秘花」「新宿マッド」
3/17(月)「日本暴行暗黒史 怨獣」「狂走情死考」
3/18(火)「処女ゲバゲバ」「壁の中の秘事」
3/19(水)「裏切りの季節」「新宿マッド」
3/20(木)「秘花」「日本暴行暗黒史 怨獣」「裏切りの季節」
3/21(金)「狂走情死考」「壁の中の秘事」

3/22(土)「鉛の墓標」「胎児が密猟する時」
3/23(日)「ゆけゆけ二度目の処女」「性輪廻/死にたい女」「赤軍PFLP・世界戦争宣言」
3/24(月)「続日本暴行暗黒史 暴虐魔」「天使の恍惚」
3/25(火)「天使の恍惚」「鉛の墓標」
3/26(水)「続日本暴行暗黒史 暴虐魔」「ゆけゆけ二度目の処女」
3/27(木)「性輪廻/死にたい女」「胎児が密猟する時」
3/28(金)「鉛の墓標」「赤軍PFLP・世界戦争宣言」

3/29(土)「性の放浪」「噴出祈願 15歳の売春婦」
3/30(日)「犯された白衣」「裸の銃弾」「性賊 セックスジャック」
3/31(月)「性家族」「現代好色伝/テロルの季節」
4/01(火)「噴出祈願 15歳の売春婦」「性賊 セックスジャック」
4/02(水)「現代好色伝/テロルの季節」「性の放浪」
4/03(木)「犯された白衣」「性家族」
4/04(金)「現代好色伝/テロルの季節」「裸の銃弾」


http://www.h2.dion.ne.jp/~mizurin/joho.htm

犯された白衣 [DVD]

犯された白衣 [DVD]

天使の恍惚 [DVD]

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裸の銃弾 [DVD]

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処女ゲバゲバ [DVD]

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胎児が密猟する時 [DVD]

胎児が密猟する時 [DVD]

壁の中の秘事 [DVD]

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新宿マッド [DVD]

新宿マッド [DVD]

現代好色伝/テロルの季節 [DVD]

現代好色伝/テロルの季節 [DVD]