『激突死』/『それぞれの15年』/『ノモンハン』(☆☆☆)/『天皇伝説』(☆☆☆★)

 ポレポレ東中野で、森口豁激突死』と、琉球放送制作の『それぞれの15年』を観る。


 中野ZEROホールで、渡辺文樹ノモンハン』(☆☆☆)と『天皇伝説』(☆☆☆★)を観る。
 『ノモンハン』は、会話劇を中心としているが、膨大な台詞量に圧倒されつつ、あっという間についていけなくなった。一度観ただけですべてを理解することはできなかったものの、幸いパンフレットには脚本が掲載されているので、それを読んだ上で再見の機会を待ちたいと思う。それでも日本家屋の黒光りした床、光と闇が混在した空間に魅了された。それに多用される渡辺文樹のアップで顔に落ちる影が素晴らしい。こんな異形の顔を現在日本映画で観ることはまず、あるまい。かつては殿山泰司佐藤慶みたいな凄い顔が独立プロ系の映画を観ると直ぐに目についたが、今や渡辺文樹の表情が貴重になっているのではないか。
 そこまでは、まあ、昨年の『御巣鷹山』を観ている時と同じく、驚いたり(戦場で、突如大部隊が出てくるスペクタクルシーンには度肝を抜かれた。低予算の自主映画と思っていると映画的な壮大なシーンをやってのけるのが渡辺文樹だと分かっているつもりが、やはりこれには目を瞠る)、分からなかったりもするのだが、ラスト十数分に迫った頃だろうか、それまで快調に映写が続き(今回はリップシンクしている)、このまま終盤まで滞りなく進むと思っていたその瞬間、突如映写が止まる。直ぐに再開されたが、また映写は止まり、音と合わなくなってくる。それが何度繰り返されたろうか。十数分が経過し、次の『天皇伝説』の時間が迫っている中、やはり映写されても音が続かなかったりする。渡辺監督は「会場の電圧の調子がおかしい」と呟くのだが、こんなんで次の『天皇伝説』は上映できるのだろうかと思っていたその時、渡辺監督は諦めたのか、普通なら上映中止にして入場料返却となるところを、「口で言います」と宣言する。その次の瞬間から、映画の歴史を一気に自演する渡辺文樹を目撃することになる。映写が始まり、渡辺監督は怯むことなく「入ってくる!何だ、ギャー!!」と弁士スタイルで画に合わせて喋り始める。そしてラストには「天皇陛下万歳!!」と叫び「終わりです。どうもすいませんでした!」と会場に声を響かせ、それと同時に自分も含めて会場は拍手喝采となった。
 今回の一連の上映は、週刊誌に始まり各メディアに取り上げられ、ネットで上映情報が幅広く共有されたせいもあってか、昨年の都心部の上映時とは比較にならないほどの客層を動員している。自分の隣の席に座っていた年配の男性なども、おそらくそういった情報で足を運んだと思わしき雰囲気の人だった。だから、映写が止まると、「何だこれは」というようなことをブツブツ言いながら帰ろうか否か思案しているようにも感じられた。それが、前述の活弁方式で上映をやりきると高らかに拍手し、「凄い!」と声を挙げていた。
 誰でもがこの方式をやれるとは思わない。作品と監督である渡辺文樹の距離が極めて近いからこそ可能だった苦肉の策だったのだろうが、この時、一瞬にしてサイレントからトーキーにかけての1世紀を超える映画史を、渡辺文樹が自分で体現してしまう場に居合わせることのできた幸福を思った。トーキー技術に始まり、カラーやオプチカル、VFXなどで隠れていった映画が本来持っていた生の姿が事故的に露出した瞬間を目撃することができ、『ノモンハン』は自分にとって特別な作品となった。


 上映終了後は休憩となり、『天皇伝説』から観始める観客の入場が始まった。実に盛況で200人は入っているのではあるまいかと思った(監督自身の発表によれば170人×2回とのこと)。中野ということもあってか結構知り合いに会う。松江監督も居て、『天皇伝説』上映大丈夫ですかね?などと言いながら何やら皆、妙に晴れがましい雰囲気なのは、渡辺作品の持つ映画的な祝祭性ゆえのものか。


 続いて『天皇伝説』は、『腹腹時計』路線のエンターテインメントになっていて、渡辺文樹の映画的趣味に満ちたアクション映画。
 予算の関係で、やろうとするアクションに必要なカットが足りない。それを足りないままに無理矢理繋げることで、奇妙なモンタージュとなる。それが独特のリズムとなり、唯一無二の存在感を発し始める。その合間には、膨大な陰謀史観が披露されるが、決して聞き取りやすくはない渡辺文樹自身のナレーションで語られると、それがどれだけ突拍子がなかろうとも、死んだ人間の大半が毒殺だと言われようとも、乗ってしまう。『天皇伝説』とタイトルで煽りながら自ら主演して、自分の好きな映画へのオマージュを捧げながら嬉々として映画を作る渡辺文樹のふてぶてしさは良い。



 パンフレット『ノモンハン』『天皇伝説』購入。各700円。
 DVD『ザザンボ』『腹腹時計』購入。各五千円也。高い。

 知り合いのライターの方に頼んでおいたCD『若松孝二傑作選 天使の恍惚』『若松孝二傑作選 新宿マッド』『若松孝二傑作選 腹貸し女』と、特典CDの『若松孝二傑作選』を受け取る。割引で買っておいてもらえたので、総額5200円ほど。

天使の恍惚(若松孝二傑作選1)

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新宿マッド(若松孝二傑作選2)

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腹貸し女(若松孝二傑作選3)

腹貸し女(若松孝二傑作選3)

若松孝二傑作選BOX<Tシャツ付き限定盤>

若松孝二傑作選BOX

 特典の『若松孝二傑作選』が凄い。
 何せ、大和屋竺が唄う『処女ゲバゲバ』の主題歌まで入っているし、津山事件のテーマ曲としては芥川比呂志の『八つ墓村』に迫る『日本暴行暗黒史 異常者の血』のテーマ曲も良いし、ビートルズっぽさ満載の福間健二主演作『現代性犯罪暗黒篇 ある通り魔の告白』を聴きながら、この傑作がまた観たくなった。


1.狂走情死考 M-2
2.処女ゲバゲバ 主題歌T-1
3.処女ゲバゲバ M-1
4.日本暴行暗黒史 異常者の血 テーマ
5.裸の銃弾 M-1
6.現代性犯罪暗黒篇 ある通り魔の告白 M-9
7.ゆけゆけ二度目の処女 T-2
8.白い人造美女 エキストラT-2
9.血は太陽より赤い M-18
10.裏切りの季節「江ノ島
11.犯された白衣 END VOCAL T-1
12.毛の生えた拳銃 M-1