映画 「現代性犯罪暗黒編 ある通り魔の告白」

「17歳の風景」公開記念 若松孝二 レトロスペクティブ 2005 
 若松孝二レトロスペクティブも、自分の参加は今日で終わりである。結局観に行けたのは「乾いた肌」「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」「性輪廻 死にたい女」「赤い犯行」「毛の生えた拳銃」「血は太陽よりも赤い」「HOW TO LOVE 浮気の誘惑」「略称 連続射殺魔」「現代性犯罪暗黒編 ある通り魔の告白」の9本のみとなった。最大の痛恨事は「性の放浪」が時間が合わず見逃したことで、長年観たかっただけに残念でならない。夜の部にプログラミングしてくれなかったことを理不尽ながら恨ませてもらう。本来はソフト化されてはいるが、スタンダードサイズにトリミングされてしまっている「鉛の墓標」「情事の履歴書」は勿論、フィルムでは観た事が無い「ゆけゆけ二度目の処女」「現代好色伝 テロルの季節」「新宿マッド」「性賊 セックスジャック」あたりは行きたかっただけに残念だ。しかし、一気に未見の若松作品が6本観れたことは嬉しかった。
 この続きは、今秋から発売が始まる若松の初期傑作選DVD-BOXで追体験するしかない。紀伊国屋から出るので高いのが難点だが。3本パックのBOXで4弾まで出て計12本出るらしい。未ソフト化作品3本含むとあるが、何だろうか。「血は太陽よりも赤い」「現代性犯罪暗黒編 ある通り魔の告白」「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」あたりなら嬉しいのだが。
 しかし、1BOX15800円という高値である。大体若松の作品なんか70分くらいしかないのだから、今村昌平の「盗まれた欲情」と「西銀座駅前」が1本に収めてDVD化されているように、片面2層で1枚に2本入れて出せば良いんだ。若松は量の作家なのだから。第一弾は「新宿マッド」「性賊 セックスジャック」「天使の恍惚」で、10/28発売。結局買ってしまうのだろうが‥

129)「現代性犯罪暗黒編 ある通り魔の告白」〔クレジット:現代性犯罪暗黒編〕(ポレポレ東中野) ☆☆☆★★★

1969年 日本 若松プロダクション パートカラー シネスコ 72分 
監督/若松孝二     脚本/出口出福間健二)     出演/福間健二 芦川絵理 花村亜流芽 岩崎厚子 谷川俊之

 先日観た「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」も秀作だったが、それに先立つ現代性犯罪シリーズ第1作となる本作は、素晴らしい傑作だった。若松孝二の代表作の1本になるだろう。本作の成立過程は、「俺は手を汚す」や、福間健二も語っている通り、当時都立大の学生だった福間が街で熱狂的ファンだった若松を見かけて声をかけ、若松プロに出入りするようになり、自身で脚本を書き、主演も兼ねたのが本作に当たる。それまでにも「性犯罪」や、「腹貸し女」「女学生ゲリラ」に出演している。
 本作が製作された1969年は若松孝二の絶頂期と言える時期で、この年に撮られた作品で観ているのは「狂走情死考」「処女ゲバゲバ」「ゆけゆけ二度目の処女」「現代好色伝 テロルの季節」「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」などがあり、その前後の年では「腹貸し女」「復讐鬼」「金瓶梅」「新宿マッド」「性賊 セックス・ジャック」「性輪廻 死にたい女」 と言った作品を観ているが、多少完成度にバラつきはあれども、テンションの高さは紛れも無くあり「狂走情死考」「現代好色伝 テロルの季節」「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」「復讐鬼」「性賊 セックス・ジャック」と言った若松のベスト級の作品が並んでいる。
 この時期の若松の作品の脚本は、当然ながら大和屋竺であり、足立正生であり、小水一男であるわけだが、その中で素人でしかなかった福間健二の存在というのは違和感がある。しかし、日大出身で「鎖陰」などを撮っていた足立正生を「血は太陽よりも赤い」で助監督に起用して以降は直ぐに脚本家として「ひき裂かれた情事」を書かせたりした若松の若者愛好を考えると、既に関係性が深まっていた上記三人以外の新人と若松が組みたがったのではないかとも考えられる。
 その結果が同様の工程を経て製作された「現代性犯罪絶叫篇 理由なき暴行」よりも優れた作品となったのは、後の映画との係わりを見てもわかるように、福間健二が遥かに映画的資質に恵まれており、その能力に若松が触発されて傑作が撮れるという、いつもの若松が傑作を生む際のプロセスが、うまく作用したということだろう。そんな作り方をしているから傑作と失敗作が常に紙一重なわけだが。
 悶々とした童貞高校生が同級生の少女を河原で犯し、揶揄されたことに腹を立て刺殺し、連続通り魔となるという、それだけを捉えれば何でもない安っぽいプロットに過ぎないが、宮台真司に酷似した若き日の福間健二の表情と、若松の演出も失速せずに快調だった。
 個人的に芦川絵理が好きなので、「処女ゲバゲバ」「女学生ゲリラ」しか観ることが出来なかっただけに、芦川絵理の魅力溢れる作品が加わって嬉しい(ま、今は60手前のババアになっているんだろうが‥) (続く)