映画「四十路未亡人と猫 ねぶり責め」「ふしだらな女 真昼に濡れる」

242)「四十路未亡人と猫 ねぶり責め」〔痴漢と覗き 未亡人と猫〕  (上野オークラ) 不完全鑑賞につき評点なし

1996年 日本 サカエ企画 カラー ビスタ 60分

監督/新田栄   脚本/岡輝男    出演/芳田正造 秋山ルナ 田口あゆみ チャチャ






243)「ふしだらな女 真昼に濡れる」  (上野オークラ) ☆☆☆★★

2006年 日本 国映 カラー ビスタ 分

監督/田尻裕司   脚本/山田慎一    出演/松永大司 仏本あけび 佐野和宏 山口真里 松浦祐也 吉岡睦雄



 最近の「淫らな唇 痙攣」「ヒモのひろし〔SEXマシン 卑猥な季節〕」も素晴らしい佳作だった田尻裕司の新作が上野にかかったので、どうせピンク大賞なりLOVE CINEMA SHOWCASEでかかるんだろうなと思いつつ、早く観たかったので久々に上野オークラへ。本当は国映のだけイソイソと観に行くなんて偏っているし、ピンク大賞やポレポレで観ただけでピンク映画を観た気になるのは、普段から熱心に観ているヒトからすれば馬鹿としか思えないだろうなと思いつつ、怠慢で観れていない。気になる作品は多いのだが。観れば確実に、それこそビデオ上映のレイトショー枠日本映画より遥かに面白いのにと思ってはいるのだが。結局最終日に秋葉原に行ったついでに立ち寄ることができたが、都合でオーピーの「セクシー女医 はみ出す巨乳」は見逃し、「四十路未亡人と猫 ねぶり責め」と本作のみ観た。

 田尻裕司はやはり巧い。相変わらず質の高い秀作だった。評価され過ぎの「赤目四十八瀧心中未遂」より、本作の方が良い。

 今回はそう秀作にはならないのではないかと一瞬思ったのは、ヒロインの仏本あけびが、白のワンピースに白日傘を差し、白痴的な精神を病んだ少女を演じていたからで、映研じゃあるまいし、こういうヒロイン造形を今更堂々とやるというのが信じられなかったし、もうパターンも決まってるし、僅かに喋るたどたどしい言葉を聞くにつけ、これは駄目だと思った。しかし、演出で見れるものにしてしまっていることに驚く。こんな使い古されたキャラクターを出して来てでも、演出さえしっかりしていれば、持ってしまうんだと感心した。

 画面の充実に瞠目する。開巻近くの車で田舎に帰って来た松永と仏本が車を降りる際に奥を良いタイミングで横切ったり、中盤の雨の中、山口真里が自宅に入る際に玄関の扉に映る猫の存在も良いし、群馬の自然を取り入れた広大な風景が素晴らしく、殊に畑作業をしている松永らのところへ、端から車椅子でフレームインしてくる佐野和宏と後ろに日傘を差しながら歩いてくる仏本を捉えた大ロングも凄く良い。

 滝へと向かう佐野と仏本の同行を捉えた正面からのショットも良いし、雨の使用も効果的で、松浦祐也と山口真里の別れのシーンでの雨の中、車の横に立っている松浦の表情が良い。表情と言えば、山口が仏本と佐野の関係を松永に言いそうになってしまう時の何とも言えない微妙な表情をバストに寄って見せるのも良い。バストサイズをここぞという時に決められる優れた監督である田尻裕司の才は、終盤の寝転がった松永を俯瞰のバストで表情を見せる際にも顕著に現れる。

 前述の定型化したパターンを演出で見せきってしまうのは、嫁と義父との性交を山口に見られてしまうという、御馴染みな珍しくもないシークエンスでの演出でも発揮されていて、どう処理するのだろうと思いながら観ていた。今更ドアをガラっと開けるなんてのは無いだろう。あるいは、どのタイミングでドアを開けるのか、などと思いながら観ていた。画面は、納屋で交わる二人とそこへ向かう山口のカットバックである。次の瞬間、あっ、と思った。納屋のカメラは、これまでのアングルを引っくり返して室内側から捉え、手前に二人を配して、背景に開け放した窓を配したアングルとなる。その窓の外に、逆光の光に包まれた山口がポツンと立ち、じっと室内を無表情で半身を正面に向けつつ見ている。この見せ方が実に良くて、タメを置かずに見せるのが良い。
 終盤の二人が瀧に立つシークエンスの幽玄性も良い。

 ハナシだけを捉えれば、仏本の白痴的な症状を都合よくシチュエーションのお膳立てに使い過ぎなので、弱いのだが、脚本の弱さを演出でカバーしている御蔭で、画面の充実度は高まった佳作になりえている。