『目隠しプレイ 人妻性態調査』『色情団地妻 ダブル失神』

32)『目隠しプレイ 人妻性態調査』〔ビデオ題:目隠しプレイ〕 (上野オークラ) ☆

1997年 日本 セメントマッチ カラー ビスタ 60分分
監督/池島ゆたか    脚本/岡輝男    出演/真純まこ 久保新二 樹かず 桜沢愛香


33)『色情団地妻 ダブル失神』 (上野オークラ) ☆☆

2006年 日本 国映・新東宝・Vパラダイス カラー ビスタ 分
監督/堀禎一    脚本/尾上史高 堀禎一    出演/葉月螢 牛嶋みさを 冴島奈緒 チョコボール向井 加藤靖久

 堀禎一と言えば、デビュー作の『SEX配達人 おんな届けます』(ビデオ題・弁当屋の人妻 もう一品、私はいかがですか?/WOWOW放送題:マル秘配達人 おんな届けます/アテネフランセ上映題:宙ぶらりん)の印象が鮮烈で、素晴らしい佳作だった。第二作『草叢 KUSAMURA』(成人館公開題:不倫団地 かなしいイロやねん)も好印象の佳作で、地味な作風ながら堅実で適確な演出に信頼を置いているので、もっと量産して欲しいと思っている映画作家の一人だ。殊に『SEX配達人 おんな届けます』は、ショットの適確さや、切返しの良さ、自転車で手前に向かって併走するシーンの素晴らしさなど忘れ難い魅力に溢れた作品だった。
 その堀禎一の第三作目がようやく上野オークラにかかったので向かう。が、とても失望した。初めての失敗作ではないのかと思った。国映としては『悶絶 ほとばしる愛欲』に続いて失敗作ということになる。
 堅実な映画作家が、不要なとんがった作家性を出そうとして豪快に空転したような、適切な例ではない(と言うのも自分が好きな作品だから)が、阪本順治が『トカレフ』でやたらと言われていた時のような感じに近い(念押しで言っておけば、自分は『トカレフ』は好きで、『新・仁義なき戦い。』も妙に愛着があるが、一般評価が高いという理由だけで他の阪本作品を不当に罵倒し、『鉄拳』『トカレフ』『新・仁義なき戦い。』あたりだけを過剰に高く評価するヒトは嫌い。なら『BOXER JOE』こそ擁護してみろ)気がする。
 団地妻モノという古典的なベースで何をやるかという際に、プロレスという要素を持ってきたのは良いと思うが、そこに子供と、夫のAV嬢との浮気という要素を入れ込んで、尚且つ夫婦の関係を中心に置いてあっては、この尺で処理しきれないだろうという同情すべき余地があるとは言え、あの堅実な正攻法の演出で唸らせる堀禎一がこういう演出で行くという選択をした背景には何があったのだろうと思う。
 ただし、単なる失敗作、駄作の類ではなく、大きな魅力を一つ抱えている作品だけに捨て難い。それは、葉月螢をとてもとても魅力的に映し出している作品であるということに尽きる。後述するが、本作での葉月螢は久々にゾクゾクさせてくれる。


 開巻に、「小林悟監督そして高野光投手に捧げる」という文字が出る。両者共に2000年〜2001年に没した映画監督と元プロ野球選手だ。
 本作では、これまでの作品に比べて切返しや自転車の走りが突出して良いとは思わなかった。開巻にロングで登場する自転車の上手からのフレームインに一瞬期待するが、直ぐにカットが変わってしまった。しかし、次の瞬間にハッとさせられたのが葉月螢のアップで、煙草を吸う葉月をやや煽りで捉えたショットが素晴らしい。以降何度か反復されるスクリーンにフルで映し出される葉月螢の顔は、やはりそれだけで映画だと思った。それは、いくら皺が増えようが、やはりアップになると、それだけで映画だとしか言い様がない岡田茉莉子のアップを観ている時と同様の思いで、年齢を経た現在の葉月螢であっても、全く衰えないし、その顔の造形、表情はアップでスクリーンに映し出されても全く見飽きない映画的な顔だ。
 団地の室内での、葉月と夫のカラミは鏡の映りこみから見せている。脱ぐところからの長回しで見せていて、やはり大したものだと思った。ただし、同じ趣向で後半にもう一度見せたのは良くないように思えた。確かに緊張感もあって充実した画面には成り得ているが、二回も繰り返されると、単純に部屋の狭さの苦肉の策を繰り返していると思えてしまう。
 本作で問題なのは子供の扱いで、初登場が遅い。子供の存在は、この作品の中ではかなり重要なので、もっと早く登場させるべきだったのではないのか。笠原和夫言うところの“証文の出し遅れ”に思えてしまう。この段階で既に不安に思ったが、以降子供の描写には一々疑問が付き纏った。いじめられるから幼稚園に行きたくないという子供に玩具を買い与え、電車を見に行く葉月と子供だが、その際、沿線沿いの道で向かいから歩いてきた酔っ払いのマメ山田が抱えていた一升瓶が、子供の背丈と同じということでアタマに当たり、子供は血を流して倒れる。
 次のショットでは、団地内の自室で、葉月が黒い服を着て香典袋(?)に名前を書いている。そこへ夫が帰ってきて、何をやってたんだと殴る。と、ここまでの段階でも以降にも、子供がどうなったか不明のままで、死んだのか、入院しているのか、自宅療養しているにしても子供が寝ているショットなどは一切登場しないままに進んでいく。
 夫が街でケーキ屋から出てきた際に若い女のあかねとぶつかり、ケーキを落としたというシーンでも、あかねは夫が潰れたケーキを開いてあーあと言ってるのを、取り出して食べてしまう。で、二人は交流が始まる…となるのだが、ヘンじゃないのか。女が唐突にヘンな行動を取って、というのはアリだが、そういう行為を観客がアリと思える演出ではなく、かなり実直にストレートな描写でそれを見せているので、違和感しか感じなかったし、そこから交流が始まるとも思えなかった。
 プロレスを家族で見に行くシーンで唐突に子供がまた出てくるので、どういうことなんだろうかと思ったが、やはりここでも突出して素晴らしいのが葉月の表情で、声援を送る際のやや煽りで捉えたショットのアップには魅了され、いつまでも観ていたいと思った。
 夫とあかねの不倫は、彼女の仕事場であるAVの撮影現場に夫が訪ねるが、彼女の彼を紹介されてしまう。レストランでの食事に二人を誘い、結婚を祝ってやり、ワインをプレゼントして帰りの車の中で飲むように薦める。夫の運転する車の後部座席で二人は酔って寝ている。次のショットでは炎上する車を見詰める夫というショットになる。やらんとしていることは分かるが、こういう唐突性や省略を活かした突き放した演出じゃないから、単に手抜きだと思えてしまう。
 煤を服に付けつつ帰宅した夫に葉月は、子供がまた階段から転げ落ちて、同じところを打ったが、幼稚園に行ったと伝える。ここまで来て、子供は既に死んでいて、観客が目にしているのは幽霊なのかと考えると恐怖映画として好意的に観ることが出来るなと思うが、そうでもないようなのが残念だった。夫が風呂に入るというここでの展開では、風呂場で皿を持ってカレーを食うという唐突性の発生があるが、これも何の思い付きか知らないが、全く活かされていなかった。違和感のみ。まあ、風呂場でカレーだから、スカトロの…とか意味でもあるのかと一瞬考えてしまったが。ただし、ここでもそのカレーを食べる夫を見つめる葉月のアップが凄いので、そこだけは良かった。
 チョコボール向井はアフレコが凄く下手だとか、ボカシに重ねてフィルムを引っ掻いて消しているのは久々に目にしたとか、作品周辺のことなども思いつつ、葉月螢のアップによって成立している作品だと思った。
 しかし、堀禎一にとっては、必要不可欠な失敗作だったのではないかと思う。失敗作を撮ったことで、次は傑作を放つという確信があるので、処女作を越える作品を期待して待ちたい。