木村大作 初監督作『劒岳 点の記』

http://hochi.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20070613-OHT1T00157.htm


 カメラマンが監督をするというのは、近年でも仙頭武則が仕組んだ『TAMPEN』とかでも見られたハナシで、海外に比べて撮影監督から監督へという流れは少ないとは言え、そう珍しいものではないが、10億円規模のメジャー大作で、となると日本ではメジャー公開された成島東一郎の『オイディプスの刃』以来ぐらいではないかと記憶の限りでは思う。
 新田次郎原作で、北アルプス剣岳山頂を舞台に測量官の物語という、木村大作出世作八甲田山』を思わせる作品になるのだろうが、『八甲田山』を見終わった時に、“雪山は危ないなー、気をつけなくちゃ”という教訓以外何もなかったことの二の舞にならなければ幸いである。
 ま、これまでも実質的な監督と言って差し支えなかった木村大作だけに(メイキングを見れば悉く木村大作監督作品だと分かる。カメラ位置、役者の演技、現場の仕切り、演出に至るまで木村大作が担う)、初監督と言ってもそんな気がしないし、東映も大方、降旗康男にハナシを持っていったら雪山だし体力的にキツイと断られたとか、他のベテランも年齢的に無理、もう少し若い監督は木村大作とやりたくないとか、じゃあ木村大作が監督でいいやみたいな流れではないかと思う。
 木村大作に関しては、10年前に『映画芸術』誌上で蓮實重彦がかなり大雑把な批判をしたのに端を発して、『誘拐』公開時の『キネマ旬報』で木村が反論するという出来事があったが、技術批評をする際の問題を浮き彫りにさせたが、安易に蓮實に同調して木村を軽く扱う風潮が残ったのではないかと思う。
 個人的には、『野獣死すべし 復讐のメカニック』『ブルークリスマス』『金田一耕助の冒険』『火宅の人』辺りは好きだが、近年の作品には首を傾げることが多く、『おもちゃ』の紗かけて1巻丸まるやってしまうとか、実験精神は好みだが巧く結実しているとは思わなかったし、『鉄道員』などでも見られるモノクロをデジタル処理するのも効果が出ているとは思わなかった。又、『おもちゃ』『ホタル』のブルーバック合成の使用法の酷さにも目を覆った。新作の『憑神』を未だ観ていないので分からないが(近年では珍しく低予算らしいので、案外かなり良いのではないかと思っている。木村大作が新人監督の16mmの撮影をやれば面白いと思うこともあるが、ま、監督は形無しだろう)、空間恐怖症と揶揄される例の画面の隙間をやたらと埋め込む画面設計には閉口し、息苦しさを覚えるぐらいで、伊丹十三ビスタサイズに移行してからでも顕著だが、スタンダードサイズと違って不要な隙間が空いてしまうとは言え、あんまりモノを詰められてもな、と思ってしまう。深作欣二も同様だが、案外そう息苦しくならないのは不思議だ。
 『劒岳 点の記』は、浅野忠信香川照之松田龍平仲村トオルらが出演。2009年公開予定。
 浅野と松田が雪山の猛吹雪の中でボソボソ喋ってるだけの映画にならないことを祈る。