再現された『ラブ&ポップ』幻のラストシーン

ラブ&ポップ 特別版 [DVD]

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ラブ&ポップ SR版 [DVD]

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 『ラブ&ポップ』で当初撮影されたラストシーンは、完成した映画に観られるものとは違うものだった。
 完成した作品のラストは↓にあるような渋谷川を歩く主人公たちを1カットで捉えたものだった。全篇民生のデジタルビデオカメラで撮影されたこの作品で唯一35mmになるのがこのラストで、脚本には「35ビスタになる。フィルムのありがたみを感じる観客」というト書きが書かれていたほどだ。実際、ビデオやDVDで観ると、特にレンタル版で流通しているデジタルビデオマスターで観た場合は、ビデオ映像をすんなりTVモニターで観れてしまう為、この意図が伝わりにくいが、劇場でフィルムにキネコされた版で観ると、ラストに35mmの鮮明な映像となってビスタサイズに画面が広がる迫力たるや凄いもので、『ラブ&ポップ』をビデオでしか観ていなかったさほど好きでもないという奴を劇場に連れていくと、全く反応が変わったことがあった。
 渋谷を舞台にした作品のラストを、本来人が立ち入らない渋谷川を延々と歩かせ、そこに三輪明日美が音程外れで唄う「あの素晴らしい愛をもう一度」を流し、4人の少女が映画内の人物ではなくそれぞれ本人の歩幅、歩調で真っ直ぐに歩くドキュメンタリーとしての瞬間がここにはあり、深い感銘を残す。

  • 【完成した作品のラストシーン】


 では、当初設定されていたラストシーンはどんなものだったのか。夏休みに南の島へ行こうとす女子高生たちが水着を買いに渋谷へ行き、そこで主人公の裕美がトパーズの指輪に惹かれ、それを買う為に援助交際するという話なので、ラストは主題歌をバックに指輪はないものの南の島で楽しんでいる少女たちの姿を捉えたものが予定されていた。主題歌候補は、プロデューサーの南里幸が提案した内田有紀による山口百恵のカヴァー『ひと夏の経験』。
 実際に撮影は宮古島で行われ、そこで撮影された映像の一部は公開時の特報に流用されたり、カンパニー松尾が手がけた予告篇にも使用されている。しかし、本篇には一切使用されていない。理由は監督の庵野秀明が気に入らなかったからだが、庵野秀明の凄さは、土壇場であの渋谷川のラストシーンを考え出したことだろう。あのラストがあるかないかで『ラブ&ポップ』への印象は大きく変わるだろう。

 近年、庵野秀明がと言うよりも、編集好きの摩砂雪が中心になっているのか、旧作をいじりまわすことに熱心だ。『新世紀エヴァンゲリオン 劇場版 THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』で撮影したものの未使用に終わった実写パートを編集してDVDの特典につけたり、TV版エヴァのオープニングをフルサイズOPとして再編集したりしているが、その一貫なのか、DVD『ラブ&ポップ SR版』発売に合わせて特典用に宮古島パートを編集して当初構想されていたラストシーンを再現している。6年前にDVDが発売された際に自分も観たが、珍しがったり呆れたりしたものの、『ラブ&ポップ』という作品を考える上では貴重な資料であるには違いない。
 というわけで、この再現された幻のラストシーンがYOU TUBEにアップされていたので紹介する。はっきり言ってかなり魅力に欠けるが、中盤からの35mmシーンに注目である。あるいは仲間由紀恵の際どいカット目当てに観るのも一興。

  • 【再現された幻のラストシーン】


 『ラブ&ポップ』は下記の日程で劇場で観ることも可能なので、未見、または劇場で観ていない方はこの機会に是非一見をお勧めする。

2/14 新文芸坐アニメスペシャル 番外編 庵野秀明ナイト 

22:30スタート
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 EVANGELION:1.01 YOU ARE (NOT) ALONE.』(2007/キングレコード
式日(2000)出演:岩井俊二 ★東京国際映画祭最優秀芸術貢献賞
ラブ&ポップ(1998/キングレコード)出演:三輪明日美希良梨仲間由紀恵

※上映前にトークショーの予定あり


http://www.shin-bungeiza.com/allnight.html