『平沢里菜子の(秘)暴露トーク』

平沢里菜子の(秘)暴露トーク]』(DVD) 

2006年 日本 カラー スタンダード 14分
演出/松江哲明    出演/平沢里菜子
卑猥 hiwai ヘア無修正 [DVD]
 
 松江哲明の新作は、『卑猥 hiwai』DVDに収録されている映像特典『平沢里菜子の(秘)暴露トーク』。
 平沢里菜子とのコラボは、『SとMと故郷と里菜子』以来となる筈だが、DVDの映像特典とは言え、松江哲明×平沢里菜子という組み合わせは、平野勝之×林由美香と同じくらい妙な胸騒ぎを起こさせるものがある。
 たまに知り合いで、こんなのは短い特典だろ。と言う奴がいる。勿論ただの特典で、殊更に松江哲明の新作だとか、作品として本来の商品としての意味合いを無視して持ち上げる気もない。ただ、観る側からすれば、同じモニターに映し出す映像である以上、全て均一化して観ているので、特典だろうが何だろうが関係ない。観て面白ければ何でも良い。それに、劇場公開された『セキ☆ララ』と同じDV撮影だし、編集ソフトも同じFCPだろうし、画質も同じ、撮影時間もそう大きく大差ないとなれば、『セキ☆ララ』は観るけど、『平沢里菜子の(秘)暴露トーク』は観なくて良いという理屈は成り立たない。下手すれば、『セキ☆ララ』より面白いものになっている可能性も十分あるのだ。だから、AVの奥底さにはゾッとして、常に観損ねている数多くの作品を思ってやりきれなくなったり、松江作品に限定するだけでも、多くの未見の作品があるので、そこにどんな秀作が紛れ込んでいるかと思うと、恐ろしい。
 観て見ると、やはり面白かった。平沢里菜子の普段の素の部分での魅力を感じることが出来る。面白かったので二回繰り返し観た。
 『セキ☆ララ』(IDENTITY)、『赤裸々ドキュメント』といった作品で、被写体となる女性達は、嘗ての思い出の地をめぐる。相川ひろみは、京都、鶴橋、尾道を回り、天宮まなみは家族旅行で行った場所をめぐる。彼女たちは夫々の感じ方で懐かしさを思う。
 本作では、一年前に撮影で訪れた江戸川のロケ地へ行く。印象的だったのは、平沢里菜子はよく居る、一年前でも大袈裟に懐かしがったり、過剰に思い出に没入したりする人ではない。とてもクールに回想する。
 開巻は、テロップで平沢が起用されるに到る過程が簡潔に示される。しかし、田尻裕司が「立ち姿がカッコイイ人」という条件を出していたことに感心し、映画館で本編を観ていて、思わず身を起こした平沢の立ち姿の凄さを思い返した。続いて、バス停に立つ平沢の横顔のアップとなり、ロケ地へ向かうバスが映し出されるが、これも本編で使用されたバスだ。車中でのインタビューでは、松江作品では御馴染みの同ポジでバシバシ切っていく手法で描かれる。この中で印象的なのは、インサートされる佇む平沢の表情の良さで、手を鼻に当てているショットも良い。
 一年ぶりの訪れた江戸川の土手に到着すると、テロップで、本編の脚本のト書きが示される。「S2 バス亭」と以下に続くシナリオの一文。
 本編が、ピンクシナリオコンクールで入選した作品の映画化ということもあるのだろうが、こういった特典映像で、脚本に立脚した視点を持ってきたものを目にするのは珍しいので感心しつつ観ていた。
 脚本の引用は、「S19 シーツの中」といった、印象に強く残る素晴らしいシーンを拾っているが、最後にラストシーンで脚本にありながら本編では使われなかった科白について、松江哲明は平沢に問いかける。普通に考えれば主演女優に聞くよりも監督に聞くべき質問だと思ってしまう。ただ、敢えてこの質問をぶつけているんだとわかるのは、終盤に監督の田尻裕司からの回答をテロップで示すことからも明らかだが、平沢の普段見せない表情を捉えることに主眼が置かれているのではと思えたからで、「マズイこと言っちゃったかなあ」と大仰な手振りを見せたり、照れた素振りを見せる表情など、実に素晴らしい。田尻裕司がどういう回答を寄せたかは、実際に観て欲しい。
 ハッとさせるショットがある。陸橋で玩具の拳銃を撃っている子供を捉えたショットで、途端に画面に活劇性を帯びてきてしまう。こういう非常に映画的な要素がスルスルと偶然引き寄せられてしまい、またそれを効果的に編集でインサートしてしまう奔放さが良い。
 終盤に近付くと、流石巧妙さに満ちた松江哲明だけにクライマックスを形成するに相応しい質問が投げられる。子役の子供について問うのだ。平沢はデートしたと語り、携帯の写メを探す。この時の携帯を一心に見詰める平沢の目力が凄く良い。誰か次の作品で携帯を見詰めさせてと言いたくなるくらい。そして、子役だから成人映画は観れないねという話の流れになり、観れるのは10年後ぐらいかということになる。じゃあ、10年後の子役の少年に向かってメッセージを、という展開になる。コレ、普通なら白けるようなベタなことやってるなということになるのだが、そうはならない。何故なら、初めは照れて当たり障りのないことを言っていた平沢が、カメラ目線で、その子に向かって、と同時にピンク映画というものに向かって、ちょっとだけ感動させるようなことを言う。彼女のピンク映画への高らかなメッセージと言っても良いような良い言葉を聞くことができる。ここは是非観てもらいたい。
 15分に満たない短篇だが、平沢里菜子のこれまでに見せていない一面を垣間見せる作品だった。
 今後も松江監督の作品に平沢里菜子は登場するだろうから、次はどういった一面を見せるのか楽しみだ。
 つい最近、友人が本気なのか冗談なのか、凄い問いかけを自分にしてきたのでここで答えておくと、たぶんいくら何でも松江監督と平沢さんが自転車で日本の最南端に行くとかってのは、無いと思います。

■【資料】 MOVIEWALKERレポート:NIPPON EROTICS plus(R18映画最前線)(14)
女優・平沢里菜子インタビュー
http://www.walkerplus.com/movie/report/report4582.html