『聴かれた女』

molmot2007-01-28

15)『聴かれた女』 (映画美学校第一試写室) ☆☆☆

2006年 日本 カラー ビスタ 84分
監督/山本政志    脚本/山本政志    出演/蒼井そら 大野慶太 加藤裕人 西野翔 吉岡睦雄 鳳ルミ

 
 『リムジンドライブ』を最後に山本政志の新作は観ていないままで、近年、『東京・オブ・ザ・デッド―3日―』『サイクル』といったDV撮りの作品を連作し始めたことは耳にしつつ、と言うよりもCSで放送したものを録画しているにも係わらず観ていないというのは、こちらの怠慢と、観ないまま言うのは最低だけれど、山本政志と言えども、習作程度の軽い作品なのではないかと軽んじてしまい、そう重要視していない心持がどこかにあったのではないかと思う。しかし、以前から『聴かれた女』は観に行きたいという思いがあったのは、山本政志×蒼井そらという組み合わせに惹かれたからで、特に蒼井そら山本政志の作品に入り込むことで、確実に異物効果が上がるに違いないという確信があったのは、AV以外で唯一観た蒼井そら主演のピンク映画『つむぎ(制服美少女 先生あたしを抱いて)』での彼女が魅力溢れていたからだ。
 その思いはやはり当たり、蒼井そらの魅力に溢れた作品に仕上がっていたし、山本政志がこういった作品を撮っていることが面白かった。
 どーせDV撮りの超低予算のレイトショー作品を観るなら、モロにトンガッタ芸術映画に突っ走るか、プログラムピクチャー的魅力に溢れるプロの小技を効かせた作品を観たいと思う。
 傑作だとか、欠点のない優れた秀作だと言う気はない。フラリ東中野に立ち寄って、映画を観て料金分楽しんで、観終わって直ぐに忘れるような作品だと思う。しかし、現在においてはそういったプログラムピクチャーが失われているだけに、貴重な存在に思えてしまう。本当は、2本立ての添え物として観ると実に楽しい作品だと思うが。
 男が隣の部屋に住む女を盗聴するという1シチュエーション1アイディアの作品だが、見せ方が面白い。大野慶太の壁に耳を当てて聞こえてくる音により妄想する隣人の生活と、その人物像を映像化して見せるのが良いし、ポンと飛躍させてその部屋に大野を置いてしまうのも良い。最近のレイトショー日本映画では、こういった描写すらも、わかりにくくなるからと、大メジャー映画の如き実に単純明快な描写に持っていきがちだが、こんな飛躍が入ってくると映画の厚味が変わってくる。
 蒼井そらの魅力は全篇に渡って随所に伺えるが、殊に隣の男へ預かっていた荷物を届けに行くという反復されるシチュエーションで一層輝く。玄関先に立って明るく喋る姿が可愛い。特に凄いのは、隣人男性宅に上がるという作劇場の転換点を、どう乗り切るかと思ったら、生海老を部屋で見ないかという誘いの言葉に対して、“でも、見たい”と呟かせて、まんまと室内に入れてしまう。室内に入れる為のお膳立てに腐心せずに、蒼井そらの呟きで、観客に室内に入り込むことを了解させてしまう、女優に依存した作りなのが良かった。
 蒼井の部屋での陽動作戦も面白いが、ここへ到るまでの主人公の飛躍部分がもう少し欲しかったという思いはあれども、演出の適確さは、ビデオ撮りだけに素人臭さがよりはっきり出がちな近年の他の新人監督の作品と比べても、やはり圧倒的にプロのものだと思う。
 ラストカットによく出ているが、妙に堅苦しいテーマ性を持たせるのではなく、純粋にエロを中心に据えながら軽妙にドラマを作り出すお気軽さが楽しかった。
 山本政志がロマンポルノとピンク映画とエロVシネの間を、蒼井そらを得て軽快にDV片手に撮り上げたプログラムピクチャーだった。

 
 『聴かれた女』は、2月10日(土)よりポレポレ東中野でレイトショー公開。尚、2月24(土)は「山本政志レトロスペクティブ・オールナイト+」と題して『闇のカーニバル』『ロビンソンの庭』『てなもんやコネクション』が上映されるらしいが、更に『聴かれた女』のアナザーストーリーである『聴かれた女の見られた夜』も限定上映されるとのこと。